オリンピック(五輪)に、新しい風が吹いた。スケートボード、サーフィン、スポーツクライミング…、今大会初採用のニュースポーツが、華々しくデビューした。「これが五輪なのか?」と言われながらも「クール」「明るい」「楽しい」と称賛の嵐。これまでの常識をぶち壊す新次元のスポーツが、新しい五輪の価値になることを示した。24年パリ、28年ロサンゼルスに向けて「アーバンスポーツ」が主役に躍り出る。

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これまでの五輪にはない光景が、東京で繰り広げられた。互いを励まし、たたえあって「ヤバい」トリックを決めるスケートボード、豪快なエアリバースに他国の選手も歓声をあげるサーフィン、他国の選手と話し合いながらルートを探るスポーツクライミング…。新競技の魅力は日本中に、いや世界中に伝わった。

競技への興味は、日本選手の活躍で倍増した。スケートボードは4種目で金3個に銀1、銅1、サーフィンとスポーツクライミングは、ともに銀と銅1個ずつを獲得した。西矢は13歳、開は12歳、爽やかな五十嵐に強い絆を感じさせた野中と野口。個性ある選手を紹介するたびに、なじみの薄い競技が画面に流れた。

これまで“チャラい”などと、決していいイメージでなかったこともある、スケートボードへの見方が変わった。「1人でも多くの人に見てもらえたら、うれしい。まじめな日本人が勝ち、子どもたちにもいい影響があると思います」と、大会組織委テクニカルオペレーションマネジャーの小川元氏。「アーバンスポーツ」の魅力は、多くの人たちに伝わった。

ただ、課題もあった。新型コロナ禍で無観客開催になったことだ。スケートボードの西川隆監督は「少し寂しかった。選手は歓声で乗ってくるもの。まあ、観客がいなくてプレッシャーがなかったかもしれないけど(笑い)」。組織委の井本公文サーフィン競技スポーツマネジャーも「観客がいれば、雰囲気は違った。サーフィンフェスも見てほしかった」と残念がった。

「アーバンスポーツ」の総合大会として、18年からFISE広島大会を主催する日本アーバンスポーツ支援協議会会長で国際オリンピック委員会(IOC)委員の渡辺守成氏は「大成功といいたいところだけど、やはり見てもらえなかったのは残念。魅力が10分の1くらいしか伝わらなかった」と厳しい。19年のFISE広島大会には10万人を超える人が集まった。東京五輪の「手本」となるはずだっただけに、寂しかった。

もっとも、当初は反対もあったというIOC内の風は変わった。「古い考えで新しいスポーツがわからない委員もいたが、実際にやってみて分かったはず」。若者人気獲得のために新競技の採用に積極的なバッハ会長から改革推進の命を受ける同氏は「会長も喜んでいた」と話した。

24年パリ大会は今回の実施競技に加えブレイクダンスも仲間入りする。新型コロナの感染が落ち着き、観客で会場が埋まれば、さらに人気が出る。冬季大会のスノーボードと同じように、大会に必要不可欠なスポーツになる。

「新スポーツは自由。伝統的スポーツのような上下関係はない。理念や哲学を持って、自発的にするスポーツ」と同氏はいう。多様性が叫ばれる中、伝統的スポーツも変わらなければ。パリの次、28年五輪はスケートボードやサーフィンの本場、ロサンゼルスで開催される。「ロスではいい形になる。10年後、20年後には、伝統的スポーツと新しいスポーツの立場が逆転しているよ」と渡辺氏。五輪に吹いた新しい風は、世界のスポーツを変えていく力がある。【荻島弘一】

○…8日には、パリのシンボルのエッフェル塔近くの特設会場で、東京五輪閉会式に合わせてイベントが開催された。閉会式会場に流れた映像では、自転車BMXに乗った若者が競技施設や観光名所を巡って魅力を発信。パリ五輪で新競技採用のブレイクダンスも披露。新採用のブレイクダンスなど都市型スポーツの4競技はコンコルド広場に会場を特設。閉会式に登場した2018年ユース五輪2冠の河合来夢、男子の半井重幸はブレイクダンスのメダル候補。

◆アーバンスポーツ 都市型(アーバン)スポーツの総称で、類義語としてエクストリームスポーツ、アクションスポーツなどがあるが明確な定義はない。音楽やファッションなどとともに独自のカルチャーを持つのも特徴的。総合大会として米国のXゲーム、フランス発祥のFISEなどが行われている。今大会で実施されたもの以外にもパルクール、インラインスケート、ブレイクダンスなども含まれることがある。