日本競泳チームの主将、鈴木孝幸(34=ゴールドウイン)が、日本に今大会初の金メダルをもたらした。男子100メートル自由形(運動機能障害S4)で1分21秒58の大会新記録で逆転優勝。前日の50メートル平泳ぎの銅メダルに続いて、通算7個目のメダルを手にした。日本勢が頂点に立つのは2012年ロンドン大会以来9年ぶり。男子400メートル自由形(視覚障害S11)では初出場の富田宇宙(32=日体大大学院)が4分31秒09のアジア新記録で銀メダルを獲得した。

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最後の100メートルは「死ぬかと思った」ほど苦しかった。それでも、富田はすべてを出し尽くした。真っ暗の中の競技。順位はレース中も、レース直後も分からない。「31秒で2位」とスタッフに告げられ、感情があふれた。「アジア新でメダルだなんて、信じられない気持ちです」。プールサイドで涙を流した。

12年からパラ水泳に取り組んできた、転機は17年だった。病気が進行したことで、S13(弱視)のクラスがS11(全盲)に変更された。高校まで県大会レベルだった泳ぎが、いきなり世界のトップになった。夢だった東京大会のメダルが、現実的な目標になった。

健常者だった富田が視力を失ったショックは大きかった。多くの人の支えが必要だった。「近くではコーチやスタッフに支えられ、遠くからは家族や友人、仲間が応援してくれる」と言葉を詰まらせ「この大変な状況で、多くの人が自分のことをメダルに導いてくれたと思う」と話した。

名前から、以前は宇宙飛行士になりたかった。「思い描いていた人生とは違った。でも、僕の泳ぎが障がい者への理解を深めるきっかけになるとしたら、障がいを負った意味がある」と富田は笑顔で言った。

◆富田宇宙(とみた・うちゅう)1989年(平元)2月28日、熊本市生まれ。3歳から水泳を始め、熊本・済々黌高時代は九州大会出場。高2の時に網膜色素変性症が判明した、徐々に視力が低下する中、日大では競技ダンス部で活躍。卒業後の12年に再び水泳を始めた。17年のクラス分けでS11(全盲)となり、19年世界選手権400メートル自由形と100メートルバタフライで2位。168センチ、63キロ。