パラ水泳界の新星、山口尚秀(20=四国ガス)が世界新記録で金メダルを獲得した。男子100メートル平泳ぎ(知的障害)予選を1位で突破すると、決勝でも持ち前の大きな泳ぎでライバルたちを圧倒。1分3秒77で自己の持つ世界記録1分4秒00を更新し、初挑戦の大舞台で表彰台の中央に立った。日本競泳陣の金メダルは、今大会2個目となった。

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折り返しからの50メートル、山口はぐんぐん加速した。187センチ、85キロの体を豪快に使い、靴のサイズ30センチの大きな足をひれのように使った。50メートルで0・10秒差だったミッシェル(オーストラリア)を突き放し、世界新でゴール。掲示を見ても派手なガッツポーズはなかった。「あ~、出たなあ、3秒台」と冷静。「世界記録更新と金メダル、2つの目標が達成できてよかったです」と淡々と話した。

3歳の時「知的障害をともなう自閉症」と診断された。会話が苦手で、言語も遅かった。突然パニックを起こすこともあった。それでも、水泳は楽しかった。小4から通うスイミングスクールでも、黙々と練習を積んだ。高1の時に全国障害者スポーツ大会でメダルを獲得し、本格的にパラ競泳をスタート。2年前、18歳で初めて世界パラ水泳に出場し、100メートル平泳ぎで世界新を出して優勝。パラ水泳のエースになった。

生まれはシドニー五輪の2000年。高橋尚子と松井秀喜から「尚」と「秀」で「尚秀」になった。「パラ競泳選手として、何かつながることができれば」と話していたが、金メダル獲得という大きなことをやってのけた。残るは31日の200メートル個人メドレー。「パラ競泳の金メダリストとして、頑張っていきたい」と力強く話していた。

◆山口尚秀(やまぐち・なおひで)2000年(平12)10月28日、愛媛・今治市生まれ。1歳から歩行浴などで水に親しみ、泳ぎは4歳から始めた。17年4月に日本知的障害者水泳連盟に選手登録。19年世界パラ水泳100メートル平泳ぎに1分4秒95の世界新で優勝。20年11月の秋季記録会で1分4秒13、今年5月のジャパンパラ大会で1分4秒00と更新した。今治特別支援学校卒。家族は両親と姉。