東京オリンピック(五輪)7人制ラグビー男子日本代表候補の桑水流(くわずる)裕策(34=コカ・コーラ)が、延期となった五輪への複雑な胸の内を明かした。24日までに取材に応じた。4年前のリオ五輪では主将を務め強豪ニュージーランドを撃破。メダルには届かなかったものの4位という快挙を成し遂げた。自身の年齢から今年にかけていたベテランは、今地道にトレーニングを重ねている。

  ◇   ◇   ◇  

桑水流は全国大会の常連校鹿児島工から福岡大へ進学。大学2年時から7人制の代表に選出されてきた“ミスターセブンズ”だ。15人制に比べ競技の認知度が低い中、その魅力を発信してきた第一人者だ。

「7人制は100メートルを何本も走るイメージ。15人制は中距離から長距離。どちらもきついですが、7人制の魅力は展開がスピーディーなことです」

4年前のリオ五輪では、1次リーグ初戦でラグビー王国ニュージーランドを14-12で破る大金星を挙げた。当時主将を務めた桑水流は、後半終了間際に相手の猛攻をものともせず、激戦の中、こぼれたボールへ飛び込み奪取に成功。歴史的勝利をものにした。その後もケニア、フランスと撃破し4強。15人制でも達成できなかった快挙を成し遂げた。大会後は7人制から離れていたが、19年7月に復帰を決意した。

「リオのときはメダルを目標にしていました。あと1歩のところで4位でした。でも当時はやりきったと思っていました。ただ東京五輪が近づくにつれてメダルが取れなかった悔しさが出てきて、メダルを取りたいという思いが強くなっていました」

15人制と同じ広さのピッチで7人で戦う。試合時間は14分以内(大会の決勝では20分以内)と短いが、運動量が多い分、若い選手が有利だ。34歳という年齢から20年の東京五輪がラストチャンスとかけてきた。だが、新型コロナウイルスの感染拡大で東京五輪は延期が決定。まだ気持ちの整理はついていない。

「五輪に向けて気持ち、体調の調整をしてました。延期であと400日以上になった。目の前に見えていたボールが見えないところに行ってしまった感じです。1年後は35歳。そこに専念するだけの気持ちにはまだ切り替えられていないです。それでも五輪を目指すことは自分にとって大きな目標なので」

現在クラブは活動休止中で、調整は1人で行っている。朝6時ごろからランニング。自宅にウエートの器具がないため、人が少ない公園でスクワットや懸垂など自重トレーニングを地道に続けている。

「自粛期間に目の前のことを全力でやっていければ、それが積み重なって、五輪という自分の中での光が見えてくるのではと思っています」

複雑な思いを持つ34歳。だが、壁を乗り越えた先に五輪出場がある。“ミスターセブンズ”は今も1歩1歩階段を上っている。【南谷竜則】

○…コカ・コーラボトラーズジャパンがレインコート3000枚を医療従事者の防護服用に大阪市に寄贈した。レインコートはラグビーのコカ・コーラレッドスパークスが試合の際に観客用に準備していたもの。桑水流は「選手、スタッフ、ファンの思いを込めてチームが寄贈してくれた」と語った。

◆桑水流裕策(くわずる・ゆうさく)1985年(昭60)10月23日、鹿児島県生まれ。鹿児島工でラグビーを始め、3年時に花園出場。福岡大2年時に7人制日本代表に初選出。リオ五輪では主将を務めた。高校、大学時代はロック、現在はフランカーもこなす。188センチ、104キロ。

◆7人制男子日本代表 昨年12月に第2次五輪スコッド19人を選出。桑水流や15人制の15年W杯日本代表藤田慶和(パナソニック)らが名を連ねている。五輪の登録は12人(補欠を除く)。岩渕健輔ヘッドコーチの下で、年明けからも海外遠征や国内合宿を実施。桑水流が参加したワールドラグビー・セブンズシリーズのカナダ大会(3月)は16位。新型コロナウイルスの感染拡大により、1年後の東京五輪に向けて、日本協会は「スケジュールを全面的に見直す」としている。