「池江すごいね。感動したよ」。東京五輪代表に内定した池江璃花子に興奮する友人が、続けて「でも、オリンピックは中止なんだろ?」と聞いてきた。開催を疑問視するのも当然だろう。日本中を沸かせた競泳日本選手権と同時期に、新型コロナの感染が急拡大しているのだから。

池江の活躍による東京五輪への「追い風」も、新型コロナは吹き飛ばせない。12日には東京などが「まん延防止等重点措置」の適用対象になる。「準緊急事態宣言」で飲食店に時短営業が要請され、不要不急の外出自粛も求められる。開幕100日前でも、五輪ムードは高まってこない。

日本中で新型コロナ感染への警戒感が強まる中、国内を巡る聖火リレーにも違和感がある。密を避けてマスクをし、声を出さずに見守るだけなら、感染リスクが高くないのは確か。それでも、沿道の観客に眉をひそめる人は多いはず。醸成されるのは「機運」ではなく「不安」のようだ。

もちろん、有名人が走れば沿道は盛り上がるし、走ることを楽しみにしているランナーも多い。地方の活性化やスポーツ振興にも寄与できる。それでも「人流を抑える」とする一方で、スポンサーや関係者を連れた聖火の「大移動」には首をひねらざるをえない。

すでに、13、14日に予定されていた大阪府は、公道でのリレーを中止。沖縄など他県でも実施の可否、方法などが検討されている。急激にワクチン接種が進むことはないし、今後しばらくは感染拡大が続きそう。リレーを取り巻く状況がよくなるとは思えない。

最優先は東京五輪、パラリンピックを安心安全に開催することだ。聖火リレーが「どうでもいい」とは言わないが、あくまで大会がメイン。五輪運動の地方への広がり、地方の活性化やスポーツ振興など役割は多いが、それも大会が無事開催されてこそだ。

無理をして聖火リレーを続けることはない。オリンピック憲章には「聖火を主競技場に運ぶ責任は大会組織委員会が負う」とある。もちろん、IOCやスポンサーの意向もあるが、感染拡大が理由なら中止も許されるはず。事実、今大会の聖火もオリンピアで採火した後、ギリシャ国内リレーは沿道が「密」になるため途中で中止されている。

走ることを楽しみにしていたランナーもいる。聖火を見たいと思う人も多いだろう。ならば、大会後にリレーしてもいい。閉会式での消火は恒例だが、今回は特別。すでに1年間保管されるなど「何でもあり」なのだから。閉会式後に興奮とともに東京をスタート、47都道府県を逆ルートで福島まで戻せばいい。

各地でイベントを行い、五輪、パラリンピックで活躍した地元の選手にも参加してもらう。ワクチン接種は進んでいても、リオ大会のように銀座に80万人も集めるパレードは非現実的。各選手が地元でファンと触れ合う場になるし、聖火ランナーがメダリストと一緒に走れるかもしれない。

「オリンピックで池江を応援したい」と多くの人が思った。それでも、開催への不安は残る。今は、できる限り不安要素を取り除くこと。外国からの観戦者受け入れ断念には賛否あったが「大会を開催するためには、仕方ない」とプラスに考える人が多かった。

「安心安全な大会」は選手や関係者だけのものではない。国民にとっても安全で、安心できる大会でなくてはならない。世界各地で予選は続いている。選手たちの熱い思いに答えるためにも、五輪を迎える準備は万全であってほしい。観客数の制限も含めて、多くの人が「そこまでやれば、大丈夫。開催してほしい」と思える発信を積極的に続けることが、大会の成功につながる。【荻島弘一】