サッカー女子日本代表「なでしこジャパン」は、東京五輪開会式(23日)に先立って21日にカナダとの初戦(札幌ド)を迎える。なでしこのレジェンド澤穂希さん(42)が20日までに、日刊スポーツの取材に応じ、14歳の頃から知る新10番“ぶっちー”ことFW岩渕真奈(28=アーセナル)との思い出を語り、なでしこジャパンに熱いエールを送った。【取材・構成=杉山理紗】

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ぶっちーが10番になりました。実は、そのことで相談を受けていました。「10番に対する思いがあるけど、自分で背番号は決められないから、どうしたらいいかな?」って。私は「自分が今どういう状況で、どういう思いでいるのか。高倉さんに一度、責任感や覚悟を伝えてみたら?」と言いました。今のなでしこの象徴的な選手はぶっちーだし、実際に10番はふさわしいと思っています。今後「なでしこの10番はぶっちー」と言ってもらえるよう、責任と結果を出さないといけないね、と本人に言いました。東京五輪でも、覚悟を背負って戦ってくれると信じています。

ぶっちーとの出会いは、彼女が中学生の頃。メニーナ(日テレ東京Vの下部組織)のときから注目されていて、中学生でベレーザに上がって、最初は年上の選手の中で遠慮していたけど、すごく負けず嫌いでした。技術がしっかりしていて、小柄で、ドリブルが上手、緩急もスピードもあって、大野忍選手にちょっと似ていたかな。頼もしくて、将来を期待される選手だと思っていました。

彼女が代表に呼ばれだしてから、よく話すようになりました。とても人なつっこいんです。物おじせず、年齢が離れた先輩にも積極的に絡んでいく。そういう性格なので、上の選手からすごくかわいがられて、一目置かれていた感じですね。普段から非常に明るい選手なので、いろんな話で笑わせてくれたり、盛り上げてくれたり、チームのマスコットみたいな感じでした。

ぶっちーが18歳で出場した11年女子W杯(ドイツ大会)の時は、途中出場で流れを変える選手でした。優勝したけど中心メンバーではなかったので、「うれしかったけど、悔しい部分もあった」と言っていたのが、印象に残っています。伸びしろがあると思ったし、その言葉から成長を感じられました。若い世代の中では中心で活躍していたぶん、難しかったと思うけど、愚痴は言わなかった。「悔しい」と言葉に出して頑張っていた彼女は、すごいなと思っていました。

私には「今日はこの人が点を取りそう」というシックスセンス(第六感)みたいなものがあって、準優勝した15年のW杯(カナダ大会)の時は、それがけっこう当たっていました。ぶっちーとも「澤さん、今日私入れるかな?」「うーん、今日は入れない!」と言い合っていたんですが、準々決勝のオーストラリア戦の朝は、ぶっちーが入れそうな雰囲気があったので、そう言ったんです。実際に決勝ゴールを決めて、試合後は「澤神さま~!」って言われました(笑い)。

あの大会でベンチスタートが増えた私は、必ずぶっちーの隣に座っていました。「自分が出たらこうすればいい」と、2人で話していたんです。ぶっちーにはいつも、「いつチャンスが来るか分からないから、ちゃんと準備をしよう。サブ組の練習でも、試合同様にスライディングして体を張ろう」と言っていました。試合に出られなくても、ベンチで声を出すなど、できることを2人で考えました。年齢を超えていろんな話ができたり、一緒に目標に向かって頑張れる選手の1人でした。負けず嫌いだけど、いろんな人の話を受け入れられる素直さがある。ぶっちーの存在は刺激になったし、一緒にやっていて楽しかったです。

15年W杯の後、私はぶっちーに「東京五輪では10番を背負ってほしい」と言いました。誰よりも若いときからW杯や五輪を経験していて、5年後、6年後には、中心にならないといけないと思ったからです。

でも、ぶっちーも1人で戦うわけじゃない。主将の紗希(熊谷)もいます。グラウンドで最も結果を出すのが、10番の役割です。チームが苦しいときに点が取れる、体を張れる、背中やプレーで見せられる10番になりたいと私自身が思っていたので、ぶっちーにもそういう思いで背負ってほしいと伝えてあります。

コロナ禍で思う存分合宿ができなかったり、コンディション調整の難しさもあると思うけど、私が経験してきた中で、初戦はすごく大事です。その後のプレッシャーや、決勝トーナメントでの対戦相手にも関わってきます。4年に1度のスポーツの祭典。メンバーに入れなかった選手の思いも背負って、今までやってきた全てを出してほしいです。先輩からずっと受け継いでいるなでしこの良さは、ひたむきさ、最後まで諦めない気持ちやプレーだと思います。試合がどういう状況であろうが、最後まで諦めない闘志を見せて、とにかく悔いなくやってほしいです。

 

▽なでしこジャパン高倉監督 なでしこの象徴的な10番といえば澤さん。彼女の後に10番を背負う選手には重い意味があると感じていて、チーム発足時から岩渕は候補の1人でした。彼女が10番を付けたいと思っていると、なんとなく聞いたり、感じたりしていました。プレーや精神的な部分が追いついていなかったけど、ここに来てようやく少し、彼女のプレーや自覚が、自身に対してだけでなく、チームにも広がってきたように思いました。東京五輪という大きな舞台で、彼女がチームの浮き沈みを背負って立つくらいの気迫で10番を背負って、グラウンドで躍動してくれることを期待しています。