【あの日あの1面 1981年8月27日】「宇野ヘディング」VS「江本舌禍事件」 

大阪野球部の田口真一郎デスクからメールが届きました。「江本さんの紙面を探してたら、同じ日の東京版もすごい1面。オモシロイので添付します」。日本球界最高峰の珍プレー&舌禍事件の同日報道。「ザ・スポーツ新聞」の特異日を、年齢、肩書き、表記、表現などなど、当時のまま再現します!

プロ野球の無形文化遺産に登録されている「宇野ヘディング」は、帽子を叩きつける星野仙一とワンセットの逸品。写真もバッチリ残っています。「オレは、宇野がエラーしたから怒ったんじゃない。『誰が先に巨人を完封するか』で、賭けていたから怒ったんだ」。生前の星野さんが、お茶会で繰り返した鉄板ネタでした。ホントかなぁ…番記者を喜ばせようと、話を盛ってるんじゃないか…一抹のダウトは、復刻紙面をもって解消しました。試合直後の取材で、まったく同じことを堂々と話しています。監督、疑ってすいませんでした!【宮下敬至】

爆笑珍プレー サッカーじゃないよ宇野クン

【1981年(昭56)8月27日付 日刊スポーツ東京最終版から】

三十四歳・星野が、気迫とテクニックを駆使する131球の力投で、対巨人四連勝をマークした。

打倒巨人に燃える星野は、2点のリードをもらうと、中盤からは巨人の連続試合得点ストップをねらって完封勝ちへ全力投球。七回、山本の遊飛を宇野が頭部に当てるという珍プレーが飛び出し、記録ストップは惜しくもフイとなった。しかし、星野は気力をふるい起こして完投の対巨人34勝目。キラー健在のベテランパワーで、V1目前の巨人に見事ひとアワ吹かせた。

■悔しい! 完封逃す

ホームベースを囲むアンツーカーにパッと砂煙が立った。宇野の大チョンボであわや同点の走者・山本が憤死した砂煙ではない。アウトを見届けた星野が、自らのグラブを思いっきり地面にたたきつけたのだ。同点を逃れたガッツポーズ? いや違う――。

「あの時は悔しかった。あんなプレーをオレは始めて見たが、宇野に腹が立ったわけでなく、完封が逃げたと思ったら……」プロ十三年生、巨人退治を生きがいにしてきた男の意地だ。「巨人を完封出来るのはオレかマサ(大洋平松)しかいない。きょうだって先に点をとったからねらうつもりだった」その平松が二十三日の巨人戦(横浜)で沈み、それなら、ときょう二十七日先発予定の小松に〝完封したら金十万円ナリ〟の賞金レースを挑み、プレッシャーをかけてマウンドへ向かった。

■原も手玉のドラマ男

星野と巨人、過去数々のドラマを呼んでいる。ONとの対決、封じ込んで胸を張ったこともあれば、ガツンとかまされて打ちひしがれたこともある。過去のドラマは星野の忘れられない思い出であり、今なお巨人退治の気持ちが支えになっている。

そのガッツがこの日、二度にわたるニュースター原との真っ向勝負に火花となって表れた。序盤、強風で制球定まらずピンチの連続。初回二死一、三塁でホワイトをくさいコースをねらって歩かせ、三回二死二塁はホワイトを敬遠しともに原勝負。大入り満員のスタンドは大喜びだが、星野は涼しい顔。いや、むしろ勝負を楽しんだ感じさえあった。初回は外角攻め、三回は内角勝負で計算どおり三振と三ゴロで打ち取り巨人ファンにため息をつかせた。

「オレだって十三年プロでメシを食っているんだ。確かにいいバッターだが、そう簡単に打たれないぜ」お得意の星野節。「原退治? 気持ちだよ。あんな小僧に打たれてたまるかい、という気持ちがあれば……。もっともオレだってそうだが、それをはね返すと原も一段と成長するヨ」

■痛い失策、怒る星野

巨人の連続試合得点ストップ。そして昨年七月五日以来の完封勝利は、星野自身も読み取れなかった宇野のチョンボで消えてしまったが、気力をふるい起こして投げ切った。後半は「ふりかぶると追い風なので体が流れる。タメを作るために」と、走者なしでもセットポジション投法でベテランらしいち密な神経まで配って、勝利へ執念を燃やした。【川上】

■打った山本 あわやランニングホーマー

 中日宇野選手 ボールを見失ったわけではない。完全に追いついたがボールが風で揺れて見えたのと、自分自身の走った体の揺れでつい……。中継した正岡さんが山本さんをホームでアウトにしてくれた時は、跳び上がりたいほどうれしかった。

 巨人山本選手 あんなに走らされるとは思わなかったよ。とにかくゴール前でバテてしまった。ウーン、残念、残念でした。

ボールの位置に注目、直後の1コマ。跳ねっ返りがすごい!

ボールの位置に注目、直後の1コマ。跳ねっ返りがすごい!