【深掘り】勝負したくない…「盾」となれる存在/和田一浩氏の考える強打者論〈1〉

最も卓越した打撃理論の持ち主でしょう。日刊スポーツ評論家の和田一浩氏が「強打者論」を展開します。序論、本論、結論。余すところなく送ります。(2020年5月19日掲載。所属、年齢などは当時)

プロ野球

日刊スポーツ評論家、和田一浩氏(47)の「強打者論」を3回にわたってお届けします。プロ19年間で通算2050安打319本塁打を放ちながら、シーズンで3ケタ三振が1度もない和田氏。第1回は「強打者」の条件を挙げながら、現役時代に“本物”と感じた選手を、ベテラン遊軍・小島信行記者に明かしました。

和田氏の年度別成績

和田氏の年度別成績

◆和田一浩(わだ・かずひろ)1972年(昭47)6月19日生まれ。県岐阜商―東北福祉大―神戸製鋼を経て、96年ドラフト4位で西武入団。捕手から外野手に転向して、打撃が開花。05年首位打者、最多安打。07年オフFAで中日移籍。10年セ・リーグ最年長MVP、最高出塁率。15年2000安打を達成し、引退。ベストナイン6度。通算2050安打、319本塁打、1081打点、打率3割3厘。右投げ右打ち。愛称は「ベンちゃん」。

★前後の打者に好影響

小島記者(以下小島) 今回は「強打者」にポイントを絞り、和田さんに伺います。

和田 よろしくお願いします。でも、ちょっと漠然としすぎて分かりづらいんですが、どんな話をすればいいですか?

小島 「広角に打てるアベレージヒッター」「1発のある長距離砲」「勝負強い打者」など、いいバッターを表現する言葉はたくさんあります。その中で和田さんが考える「強打者」とは、どういう打者なのかを教えていただけますか。

和田 そうですねぇ、ひと言で言うなら打線の「盾」になれるバッターかな。強打者か、そうじゃないかって、基本的には対戦相手が決めるもの。この打者とはまともに勝負をするのが嫌だな、って思わせる打者だと思います。

小島 なるほど。具体的には?

和田 チャンスで強打者の前を打つバッターと勝負する時、相手バッテリーは「後ろのバッターと勝負したくない」って思うでしょ? そうなると(与四球などを考えて)ストライクゾーンで勝負してくれる。当然、打つ確率は上がります。強打者の後ろを打つ打者も同じ。たとえば一塁が空いている状況で、強打者が勝負を避けられて四球で出れば、塁が埋まる。塁が埋まれば、次の打者とは勝負しなければいけなくなるじゃないですか。プレッシャーはかかるけど、ストライクゾーンで勝負しなければいけない状況を作り出せる。自分以外のバッターに、有利な状況を作れるのが強打者なんじゃないですか。

05年4月3日、楽天戦の1回表1死一塁、2号本塁打を放つ西武カブレラ。ネクストで次打者の和田氏が見守っている

05年4月3日、楽天戦の1回表1死一塁、2号本塁打を放つ西武カブレラ。ネクストで次打者の和田氏が見守っている

小島 打線の「盾」になるとは、他の打者の「盾」になるという意味ですね。そういう強打者が複数いると、相乗効果が出て強力打線になるでしょうね。

和田 でも強打者って、各チームにそんなにいない。広角に打てるアベレージヒッターは「好打者」でも、ある程度の長打力がないと「強打者」にはなれない。得点圏にランナーがいる時はアベレージヒッターでもいいけど、現代野球は外野のポジショニングも大胆に変えてくる。ランナーが二塁にいても、長打力が乏しい打者の時には外野手が簡単に前に出てくるでしょ? 終盤の僅差の場面になればなおさらで、極端な守備陣形をとる。そうなると、単打しかないバッターじゃ得点が難しくなる。

小島 連打で大量得点を挙げるのは難しいですし、長打が絡む方が、得点率は上がりますよね。

★アレックス・カブレラ

和田 あとは1発がある「怖さ」を持っていても、2割5分ぐらいの打率だと「いやらしさ」がない。たとえば、2死二塁の状況で3番打者と勝負する時。次の4番が1発はあっても三振が多いと、3番とはカウントが悪くなったら無理して勝負しなくなる。弱点があればそうなっちゃう。どんな状況でも「こいつとだけは勝負したくない」って思わせないと。当然、走者がいない時でもホームランで点が取れるって思わせる「怖さ」も大事ですが。

小島 ハードルが高いですね(苦笑い)。「怖さ」と「いやらしさ」を兼ね備えている打者が「強打者」ってことですね。歴代の強打者と呼ばれるバッターは、確かに調子が悪くても「間違ったらスタンドまで持っていかれる」とか「何とかするだろう」みたいな雰囲気があります。

和田 調子がいい時だけの強打者は、結構いるでしょう。でも“本物”は違うんですよ。

小島 今まで一緒にプレーした選手で、“本物”はどれくらいいましたか?

和田 西武でやってた時のカブレラ。全盛期は別格でやばかった。

02年西武優勝時の主なオーダー

02年西武優勝時の主なオーダー

小島 カブレラが4番で、和田さんが5番でしたね。カブレラがすごかったのも、5番が強打者だったからじゃないですか?

和田 いやいや、カブレラはそんな次元を超越してた。カブレラが調子が悪くて、俺が調子良くても、カブレラとは勝負を避けるような感じ。そんな時は、ネクストで待っていると「勘弁してくれよぉ」って泣きそうになってましたよ(苦笑い)。