【ホークス週間〈3〉小久保×内川】右打ちの名球会打者 6997文字のロング対談

ウィークデー通しのホークス特集。第3弾は、リーグ連覇の11年に行われた小久保裕紀×内川聖一の対談です。FA移籍の内川に、強者のマインドを説いていく小久保。テーマは多岐に渡りますが、何より興味深いのは精神論です。大打者に分類される選手でも、かくも繊細…がよく分かります。11年の歳月を物語る、写真にも注目です。(2011年10月2~4日掲載。所属、年齢などは当時。文中敬称略)

プロ野球

★内川「WBCとは違う緊張感」

ソフトバンクの2連覇を引き寄せたキーマン2人が、本音で語り合った。主将の小久保裕紀内野手(39)と、FA加入してチームをけん引した内川聖一外野手(29)が対談。チームへの思いを明かした。互いの打撃理論を披露し合ううちに、内川がいかに大きな役割を果たしていたかが浮かび上がってきた。

─小久保にとって99、00年以来のリーグ連覇

小久保あの時は日本シリーズに出られるのは分かっていたので連覇という実感があったが、去年日本シリーズに出ていないので、連覇はうれしいけれど、今年こそは(CS制覇を)という気持ちの方が強い。ただあの時よりも、去年や今年のチームの方が強い。故障者が出てもペース落ちなかったし、若手の底上げもあった。層の厚さもあるし、バランスがいいよね。

第2回WBC決勝で韓国を破り、優勝トロフィーを見上げる内川=2009年3月23日

第2回WBC決勝で韓国を破り、優勝トロフィーを見上げる内川=2009年3月23日

─内川は09年WBCで世界一になったが、レギュラーシーズン優勝は初めて

内川緊張感が違った。去年までは、最後はもう個人的なことしか頑張るものがなかった。それが、勝ち負けによってシーズンを左右する環境で、なおかつ自分がレギュラー。プレッシャーはあったが、充実感を感じさせてもらった。

小久保ペナントでこんな勝ったこと、初めてやろ。前の横浜の優勝のとき(98年)にいた?

内川いなかったです。

小久保聖一を含めて、マジックを減らす喜びを感じるのは、今の選手はほとんどが初めて。川崎は03年に優勝を経験したけど。この喜びとモチベーションの高さは、マジックがついたチームでしか味わえない。それを感じながら、野球やってるなって、伝わってきたよ。

内川勝つことでマジックが減ったのは、頑張る材料になりました。優勝に向かって、目に見える目標があるのは毎日楽しい。

パリーグ優勝を決め、歓喜の涙で顔をくしゃくしゃにする内川=2011年10月1日

パリーグ優勝を決め、歓喜の涙で顔をくしゃくしゃにする内川=2011年10月1日

─内川の4月の月間打率は驚異の3割9分7厘

内川自分でもう1度レギュラーをつかまないといけないと思っていた。昨年まで3年連続3割打ったり、チームの中心だったが、ホークスに来て1年目。周りから信用されたい、どうにかしてくれるんじゃないかと期待されたいと思っていた。FAで来て(開幕直後)ポンポンといけば、自分に勢い出てくるんじゃないかと思っていた。

─過去、FA移籍1年目でタイトルを獲得した選手はいない。内川は首位打者に近く、MVP候補

内川お願いします(チームに)入れてくださいという感覚より「内川聖一ってこういう人間です」というのを出していこうかと思った。キャンプのときから、みんなにいじってもらったし、僕という人間を100%出せた。うまく受け入れてくれた。

適時打を放った内川はベンチで松田らにアゴタッチで出迎えられる=2011年6月

適時打を放った内川はベンチで松田らにアゴタッチで出迎えられる=2011年6月

─春季キャンプで最初の休日、内川を食事に誘ったのが小久保だった

小久保横浜で佐伯さんにアゴネタでいじられてたけど、俺もやっていいんか、って一応聞かないと(笑い)。いきなりやって、傷つけたらあかんやろ。「どんどん言ってください」って言うから、さっそく次の日のシートノックから、いじらせてもらったわ。自分も(04年シーズンに)巨人に行った経験があるから、気持ちが分かる。野球以外のところで、気をつかわないようにしてほしかった。しかし年下のマッチ(松田)がいじりすぎやろ(笑い)。同級生みたいや。

内川(いじられることが)うれしかったですね。僕が新しい雰囲気をつくっていければいいな、と思っていたし。

★小久保「聖一は右打者で断トツ」

─両選手は打撃理論でも共感し合う仲

小久保聖一は謙遜するけど、キャンプでフリー打撃見たとき、レベルが違うと思った。最近見た右打者では断トツ。僕もイメージを取り入れさせてもらった。僕は(構えたとき)聖一みたいに左肘がピンと張れない。張ったら自分の場合、インコースをうまく(バットが)出せない。自分は左肘張りすぎるより、少し緩めた方がいい。左肘の張りと球の待ち方。聖一は、直球なら直球、スライダーならスライダーと、全部の球に対し、対応できる準備ができている。

内川僕の中では、新鮮だったんですよ。僕のバッティングを聞かれるなんて思ってなかったし、コク(小久保)さんが長年培ってきたものがあるし、自分の打撃を持っているんだろうなって。でも、まだ何かを得ようとしてたりとか、つかもうとしている感覚は、すごく勉強になりました。

小久保このチームは年上、年下関係なく、いいものを取り入れようとする。松田にも言ったが、聖一は右打者として手本になる。フォームがどうこうより、球の捉え方、待ち方という部分で参考になる。

内川ここの選手の聞き方って、自分なりの解決策を得た上で僕に聞きに来てくれる。マッチにしても「この投手こうだったですよね。だったら、こうした方が良かったですよね」って聞く。そうすると「こういう考え方もあるんじゃない」という伝え方ができる。

日本シリーズ第7戦で中前適時打を放つ内川=2011年11月20日

日本シリーズ第7戦で中前適時打を放つ内川=2011年11月20日

─9月27日の日本ハム戦で、内川は左打者の福田に助言

内川(福田)秀平にしても、その日はウルフの速い上に動く球に対し、引っ張りに行ってバットのド先で打ったんですよ(2打席目に投ゴロ)。ほかの打者はセンターから逆方向のヒットが多かった。それを見たとき、秀平が、しゃにむに引っ張りに行ったのが、いいとか悪いとかではなく、もったいない気がしたんです。それで「どうやったら一番打ちやすかったか、と考えたら、おのずと答えは出てこない?」って聞きました。その次の打席は(流して)レフト前のポテンヒット。「当たりは納得してないと思うけど、俺はあの形で悪くないと思う」と話したら、秀平も「周りの人はみんな反対方向とかセンターばっかりでしたね」って気づいてくれた。みんなの向上心や、結果を出したいという気持ちが伝わってくる。やりがいがあるし、負けていられない、と思うようになりました。

小久保手本意識というのは大切。自分を律することができるし、チームとして動いているし、野球は個人競技じゃないから。個人事業主であっても、チームプレーが大事。それに、聖一は悔しがる。まさにウチ(ホークス)のチームカラー。王会長が監督のとき、勝負に負けて悔しくないのか、といつも言われていた。(福岡移転後初優勝の99年以前は)おとなしすぎて、ずっと負けていて、それこそ、負けても悔しいと思わないチームだったから。王会長は悔しかったら悔しいと態度で表さないと、勝利の女神はほほ笑んでくれないんだ、と。淡々としていたら時が過ぎて終わるだけ、と言われていた。

日本シリーズ第4戦で右先制適時打を放つ小久保=2011年11月16日

日本シリーズ第4戦で右先制適時打を放つ小久保=2011年11月16日

─内川の技術とスピリットが加わった

小久保聖一本人にも言ったけれど、ウチのカラーはそうだから、悔しいときは悔しいと出していい、と話したな。そういう気持ちは自然と出てくるもの。それがないと、この世界(生き残るのは)難しいよ。

─小久保と内川には共通点がある。小久保は00年にメンタルトレーニングに取り組み、内川は横浜時代から臨床心理士の武野顕吾さんと契約するなど、内面と向き合ってきた。

★内川「弱いところ見つめ…メンタル克服」

小久保いい機会やから聖一に質問あるんやけど。メンタルトレーニングいつから始めてんの?

内川 03年からですね。

小久保きっかけは?

内川イップスだったんですよ。ただ、イップスをどうやって治すかで始まったのですが、それにとどまる域じゃなくなってきました。

小久保先生は紹介? 本読んで知り合ったの?

内川球団の人でした。でも、やっているうちに、イップスを治すことより、もっと野球選手として伸ばせるところあるんじゃないか、という風に変わってきましたね。

パ・リーグのベストナイン受賞者。左から田中将大、細川亨、小久保裕紀、本多雄一、中村剛也、中島裕之、糸井嘉男、内川聖一、栗山巧=2011年12月

パ・リーグのベストナイン受賞者。左から田中将大、細川亨、小久保裕紀、本多雄一、中村剛也、中島裕之、糸井嘉男、内川聖一、栗山巧=2011年12月

小久保俺は、ここ一番でド緊張するタイプやった。普段はいいが、ここって時に緊張しすぎる。打ち取られるのが、相手がいい球投げたものじゃない。普段通り(打席に)立てなくて、心拍数上がりすぎて、気が上に上がってるのも自分で分かるほど。(思わず手を出すような身ぶりで)ああ~って打ってしまう感じ。そこが俺の弱い部分だったし、このままじゃ4番として無理と思った。だから自分で考えて、先生にアプローチしたね。

内川そうだったんですね。

小久保井口(現ロッテ)や城島(現阪神)のようなタイプとは違う。あいつらは4打席ダメでも、5打席目サヨナラの場面で回ってきたら、おいしいと思える。俺は絶対に思えんやったな。あいつらはプラスの加点法なわけよ。それまでのマイナスなんて、ここでやったらすべて帳消しになるって思える。俺はそうは思えなかったから、どうしたらいいかと考えたんよ。

内川そういう風に、なかなか思えないですよね。