元・甲子園球児の赤裸々「あって当たり前」「勝つために何でも」「盗まれた方が悪い」

カテゴリーを問わず、球界に厳然と存在すると言われながら、実態に迫れなかったサイン盗みについて「サイン盗みを考える」と題して全14回で連載します。強豪校で甲子園を経験した元球児が集結し、勝つためにあらゆる手段を駆使した生々しい実態と、サイン盗みと無縁の高校野球に生まれ変わるための道を議論しました。(2019年5月8日掲載)

その他野球

「ある」4人「ない」2人

今回は趣旨に賛同した6人の元高校球児が集まってくれた。そこには甲子園では名の知れた、超のつく強豪校のOBもいた。

「高校時代、サイン盗みをしていました」と明言したのは4人。

「サイン盗みを一切しませんでした」と言うのは2人。

自分たちの高校時代を正直に告白した上で、今だから感じること、これからの高校野球のことを真剣に考え、後輩たちが戦う甲子園の将来について語ってくれた。

座談会に参加した元球児たち。サイン盗みの実態を、正直に打ち明けてくれた=2019年5月1日

座談会に参加した元球児たち。サイン盗みの実態を、正直に打ち明けてくれた=2019年5月1日

★「僕らはうまくやっていた」

──サイン盗みについて、高校時代の実態は

【B】「分からないようにすればいい」が率直な感想です。

【D】勝ち上がっていくには、あって当然のことだと思っているので。

【C】僕もトーナメントは負けられない戦いで、1つの勝ちにこだわるという前提で、勝ちにつながることはすべてやってきた。それが当たり前。やるし、やられるし。もちろんそのための対策もありましたから。

【A】僕らが現役のときは、うまくやっていたわけです。だから注意もされないし、注意をしてくる監督もいなかった。リードのステップの1歩目の幅とか。

【ロ】二塁のときだけ?

【C】うちは三塁の時もやっていました。

【A】一塁ランナーもやってましたよ。

【ロ】コーチャーも?

【A】盗んでます。

【C】僕らは、ランナーコーチャーがキャッチャーの球種のサインが見えたら、それをすぐに解読して声をかけていました。

【A】うちは一塁コーチャーがラインをまたいだり、中に入ったり。ベルトの上げ下げとか。

【D】足の組み方を変えたこともありました。

【A】本当にさりげなく、自然な感じで。

【B】二塁ランナーは球種とコース。コーチャーは真っすぐだと手を下ろし、変化球だと腰に手をあてる。

【イ】僕の高校は全くやっていませんでした。だから疎い。

【ロ】僕も公立高で、そういう話は監督からされたことも、サインとしてもなかった。今、みんなの話を聞いてひきょうだなって思う。高校野球はキレイな世界やと思っていたのに!

【A】ピッチャーのクセを盗むのと同じ感覚。盗んで、ベンチで言うのと同じ。

◆サイン伝達禁止 高校野球では相手側のサインを盗んで味方に伝える行為等は禁止されている。日本高野連は98年に「マナー向上」の指導要綱として、二塁走者やベースコーチが捕手のサインを見て打者にコース、球種を伝えたり、ベースコーチが走者の触塁に合わせ「セーフ」のジェスチャーをするなどの行為を禁止することを決めた。99年のセンバツから適用され、審判が口頭で指導するとした。今春センバツの「大会規則9」にも「走者やベースコーチなどが、捕手のサインを見て打者にコースや球種を伝える行為を禁止する。もしこのような疑いがあるとき、審判委員はタイムをかけ、当該選手と攻撃側ベンチに注意し、止めさせる」とある。罰則規定はない。

★球種分かれば「7割打てる」

──クセとサイン盗みの線引きはあるのか

【A】一緒なんです。当時は悪いと思わなかった。

【B】僕も今、冷静になって考えると、ルールにも書いてあるし、悪かったのかなぁとも思いますけどね。

【ロ】でも、サイン盗みしたとして、逆球が来たら?

【A】次のイニングでゼロに戻し、また新たに考える。

【B】確率の問題だから。

【C】結局、付け焼き刃。バレたらバレたで仕方ない。それまでの試合を有利に進めるための手段です。

【A】だからデータを集めるんです。

【ロ】逆にスゴイな。そんな細かいところで野球をしていたのか。自分にとって文明開化やわ。荒れてる投手の時は?

【B】荒れている投手には球種は張りません。分からない時もある。コースは毎回腕の高さで出します。球種は1歩、前に出る。

【イ】へぇ~。

【ロ】カーブ、スライダーは?

【B】以前は、変化球か真っすぐ系かで張っていれば打てたんです。どちらか分かれば間違いなく、7割は打てる。だから、アウトコースのサインがきたら絶対にヒットにする練習もします。

★「結局、盗まれた方が悪い」

──サイン盗みの対策として、サインを出すのを遅らせる捕手もいると聞くが

【B】その場合は出さないです。ランナーが迷ったら、打者を迷わせてしまうので。消すサインもあるし、分からないからコースだけ出す、っていうサインもある。それはあうんの呼吸。

【A】ステップで、真っすぐ、変化球。分からない場合は動かない。

──分からない場合は、打者は実力で打つ

【A】見逃して次の球を待って、またサインを出したり。

【B】球種が分かればいい。さらにコースが分かれば確率は上がります。でも、捕手が動くと投手は投げにくいですから。それでボールになる確率が高くなる。

【D】僕は、意識的にそういう対策の投球練習もしました。

【ロ】リードとかおざなりにならない?

【C】ならないです。捕手を見るタイミングです。リードを全然取らないとか、けん制をもらわない方法がある。別に捕手のサインが出てから、リードを取りながらバッターにサインを出すこともありますし。

【ロ】高度やなぁ。

【イ】それで甲子園でセンター前打ったん?

【C】そうです。外か内かさえ分かれば、変化球には対応できたので。結局、盗まれた方が悪いって感覚でしょうか。

【イ】いや~怖い世界や。

【A】高校野球は、サワヤカでも何でもない。勝つために必死。何でもやります。

──後ろめたくないか

【D】ないですよ。勝つのが大前提。

★「カンニングじゃなくて予習」

──勝利至上主義だからか

【C】甲子園で優勝するのが強いチームだったら、そのためにはどんなことでもしますよ。

【イ】僕はそんな汚いことをせずに、甲子園で勝ててよかったです。

【ロ】カンニングとはまた違うすごさだよね?

【A】カンニングじゃないよ。予習だから。ここ出ますよ、って教えてくれているのにそれをせずに、どうやって点数を取るの? そのために、うちのチームには調査チームがいて、相手の試合会場に行って試合を見てデータを取って。ミーティングでビデオとすり合わせをしていましたから。