【THE GAME〈8〉2012年10月8日:ソフト0―3オリ】引退試合ノーノー
当たり前ですけど…引退試合だからって遠慮する必要はないんです。けれん味なく自分の投球に徹し、大きな仕事を果たした21歳。真剣勝負を「うれしかった」と言った、20歳年上の大打者。ファンはもちろん、記者の記憶にもしっかりと残っています。(2020年5月9日掲載。所属、年齢、球場名などは当時。敬称略)
プロ野球
★小久保裕紀の2057試合目 西勇輝に
負けている方が笑っていた。
ソフトバンク小久保裕紀はこれが引退試合だった。9回2死走者なし。20歳下のオリックス西勇輝の快投を見届けると、ふふっと口元を緩めた。
「しかしオレも持ってるわ。不謹慎やけど、ここで本当になったら波瀾(はらん)万丈やなと思ったけど。引退試合の日に、ありえんで。今まで1回も経験ないのに、ここであるか?」
プロ19年目、2057試合目で初めて無安打無得点を食らった。
8月にこの年限りでの引退を表明し、本拠地で迎えた最終戦だった。小久保は自宅の神棚に手を合わせ、縁起物として玄関先に据えたふくろうの置物2体の頭をなでて出発。ウオーミングアップを含めて、いつもの流れで試合に入ったが、想定外の結末が待っていた。自身は二飛、一飛、遊ゴロの3打数無安打。それでも「今日の対戦は本当にうれしかった」と言った。
前日から「真剣勝負がしたい」と忖度(そんたく)不要を訴え、西は抜群の制球力で真っ向から応えた。
12個のゴロアウトをとり、松中信彦への1四球だけの打者28人で終える「準完全」。「誰か1本くらい打つやろうと思った」という小久保の淡い期待は、最後の打者、松田宣浩が遊ゴロに倒れて消えた。
大引啓次が西に抱きつき、女房役の伊藤光は号泣していた。
「光さん、めっちゃ泣いていた。普通は僕が泣くところなのに、大丈夫? と聞きました」。
からから笑う21歳の西は、前年日本一のソフトバンクにこの年4戦4勝とめっぽう強かった。平成生まれでは初の快挙を達成し、翌年は28試合を投げて先発の柱になっていく。
試合後、さらに前代未聞の出来事が起きる。
