長嶋茂雄の打撃を教え子・篠塚和典氏が分析 野性味の中に要諦をすべて押さえた芸術品

連続写真でフォーム分析する「解体新書」。巨人長嶋茂雄終身名誉監督の登場です。独特の力強いフォームを、日刊スポーツ評論家で、ミスターの教え子でもあった篠塚和典氏が解説しました。「恐れ多い」と恐縮しながらも、今もなお語り継がれる天才的な打撃に迫ります。(2016年5月3日掲載)

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1968年(昭43)、巨人長嶋茂雄の打撃フォーム。当時、一眼レフカメラでは連写ができず、映画撮影機の「アイモ」を高速連続分解写真が撮れるように改造。1秒間に最大で48コマ撮影可能で、スポーツ写真では通常24コマで撮影していた。冷蔵庫に保管していた長巻きの100フィート(約30・48メートル)のネガフィルムをセットし、手動式のゼンマイを巻き、戻る力で撮影した。時代とともに「アイモ改造機」は姿を消し、現在のカメラは1秒間に約12コマ撮影できる。

★動かさない場所 速く、正しく動かす場所 

ミスターの打撃は①~③の構えのところから特徴的だ。獲物を狙うように投手に向かっていく形ができていて、ボールを見極めるまで頭の上下動が全くない。

①ではグリップを体の近くに付け、バットのヘッドを体よりも前に傾けている。投手が投げる瞬間にバットを短く持ち替える高等技術を得意技にしていたが、①で体の近くにグリップがあったからこそ、素早くできたのだろう。

普通はバットのヘッドが体の前にあると、ヘッドが遠回りしがちなのだが、ミスターの場合は③までに頭の後ろに入り、早くバットのヘッドが寝る。必要以上に後ろに体重を残さず、前に出て行きながらテークバックを取る。その過程での動きで、その分、ボールの軌道にバットを入れやすいトップを瞬時につくれている。

ほとんど足を上げず、③では、すり足のように踏み込んだ足の角度も素晴らしい。45度くらい開いて左足の親指の付け根で地面をつかむように着地する。これが爆発的な回転力を生む支点になっている。

④では下半身は開き始めていても、上体は開いていない。トップの位置も深く保たれている。この体勢がつくれれば、じっくりボールを見極められただろう。好打者はこういう形をつくれている選手が多い。生涯打率3割5厘の高打率の秘訣(ひけつ)は、このあたりにあったのではないだろうか。