「嫌われた監督」鈴木忠平の随想録 勝負の情景を書き下ろし/14日(月)~3週連続

「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」で各賞を総なめにした、ノンフィクション作家の鈴木忠平氏。長くプロ野球の番記者を務めた日刊スポーツ時代より、印象に残っている情景を書き下ろしていただきました。その場にいるかのような描写。主人公の陰影。客観視した自分自身の機微。「日刊スポーツ・プレミアム」開設にあたっての寄稿「巻頭言」からにじみ出る筆者の矜持が、読み切りのエッセーに詰まっています。11月は14、21、28日と、毎週月曜日に公開の「随想録 鈴木忠平」をお楽しみください。

プロ野球

もう20年以上も前のことなのに、つい昨日のことのように鮮明に覚えている一日がある。日刊スポーツに入ったばかりの頃だった。右も左も分からない私はその日、デスクに連れられて初めて「現場」に行った。プロ野球の試合が開催されるスタジアムだった。

鉄仮面をつけたように無表情のデスクは、まだリクルートスーツの新人をゲーム直前のダグアウトに連れていき、放り出した。そこで見た光景はおそらく一生忘れることはないだろう。

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1977年千葉県生まれ。名古屋外国語大学を卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。中日、阪神などプロ野球担当記者を16年間経験したのち退社し、文藝春秋Number編集部に所属。
現在はフリーのノンフィクション作家として活動している。「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」(文藝春秋刊)でミズノスポーツライター賞、大宅壮一ノンフィクション賞、本田靖春ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞を受賞。
最新刊に「虚空の人 清原和博を巡る旅」(文藝春秋刊)がある。