【わすれられない味】メシア…意識もうろうのピンチに「これ、どうぞ」と一粒/連載4
記者には「忘れられない味」があります。時に孤独に、時にワイワイと食する味は、取材の思い出として記憶と味覚に刻まれます。好評を博した紙面の不定期連載が、プレミアムに初登場。「Season3」をご賞味あれ。
その他野球
伊丹スポーツセンター
2017年夏、Jリーグ担当からアマ野球担当に変わり、初めて甲子園取材に携わった。
右も左も分からず、特に知っている関係者がいるわけでもない。そんな中、担当する南北海道代表、北海の練習を兵庫・伊丹スポーツセンターのグラウンドで、1人ぽつんと見ていた。
暑い。こんな過酷な現場とは。北海道を拠点とする記者としては、じりじり照り付ける鬼のような関西の日差しに滅入りかけていた。
どんなに水を飲んでも体が熱い。学生時代は室内競技をやっていた。前年まで担当したコンサドーレ札幌の取材は、夏場でもアウェーゲームの1日だけ我慢すれば、北海道に戻れた。それも試合前練習、試合中以外は、ほぼ冷房の効いた報道控室の中。本州の炎天下に長時間、連日さらされる経験がなかった。
意識もうろうとしていたところ「これ、どうぞ。塩分取った方がいいですよ」と手を差し伸べてくれたのが、ノックを終えた北海の平川敦監督だった。
渡されたのは塩分を補給するためのタブレット。
同監督は前年の16年夏、チームを準優勝に導いた。当時はクーリングタイムもなかった。決勝までの長丁場、真夏の甲子園で、北海道育ちの選手たちのコンディションを維持させるために用いたアイテムの1つなのだろう。貴重な一粒をいただいた。
初めての1対1
担当になりたてで、他の記者との囲み取材で話すことはあっても、平川監督と1対1で会話したのは、その時が初めて。
「あ、ありがとうございます」。塩タブレットを手にするのも、それが初めて。礼を述べ、小さな袋をそっと割き、直径約1・5センチの塊を1つ、口に放り込んだ。
舌の上で徐々に溶け出し、ほのかに甘くしょっぱい味が、口の中に広がる。続けて水を飲むと、ボーッとしていた頭がだんだんすっきりしてきた。
一粒で、味わったことのない幸福感が押し寄せてきたのを、忘れはしない。
その後、同監督から「どこに泊まっているのですか」「いつからこっち(関西)に入ったんですか」などと逆取材を受け、緊張をほぐしてもらった。
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