かませ犬?売名行為? カズ次男と戦った元ホストYUSHIがあの一戦を語った

「元ホスト」という肩書とともに、21年の大みそかにRIZINの舞台に立った格闘家がいます。YUSHI(ユーシ)、33歳。対戦相手はサッカー界のキング、元日本代表FWカズ(三浦知良)の次男孝太でした。完敗したイケメンがリング上、そしてリングをおりた後で、見たものは-。これまでの歩みととともに、YUSHIの生きざまに迫ります。

バトル

21年12月30日、公開計量を行った三浦孝太(左)とYUSHI

21年12月30日、公開計量を行った三浦孝太(左)とYUSHI

エリート家系の道外れホスト神セブンに

ホストと聞くと何を思い浮かべるだろう-。

テレビ番組でも大人気の「ホスト界の帝王」、ROLANDをはじめ、まず「華やかな夜の世界」などをイメージする人が多いのではないか。

個性豊かで巧みな話術。そして何と言っても、端正な容姿。女性ファンはもちろん、男性からもうらやまれるそのルックスは、いわば商売道具である。

そんなホストの“魂”を傷つけられる可能性が高い総合格闘技(MMA)の舞台に甘いマスクの元ホスト、YUSHI(ユーシ)が立っていた。

それも、格闘家なら誰もが憧れる2万人超えの夢舞台に-。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

2021年12月31日。MMAイベントのRIZIN大みそか大会。第1試合の開始は午後2時01分。「元ホスト」の肩書で注目された男が、サッカー元日本代表でJFL鈴鹿ポイントゲッターズ入りしたレジェンド、カズ(三浦知良、54)の次男三浦孝太(19=BRAVE)のMMAデビュー戦の対戦相手として姿を現した。

今でもホストクラブのオーナー。リングネームも、ホスト時代の「櫻遊志」と共通点がある「YUSHI」。今も、美容面でも「かっこいい男」を探求している。売名行為なのか? 三浦に花を持たせるための、かませ犬なのか? いや、本人は大真面目だった。「人生の厳しさを教えてあげられるような試合をする。アグレッシブに攻めて早い段階でKOしたい」と意気込んでリングに上がった。

YUSHIは、開幕の緊張感に包まれていた会場を、鍛え上げた肉体と、堂々とした姿、そしてスター然といった演出で、あっという間に自分色に染め上げた。まっさらなマットに踊るようにリングイン。なぜ、元ホストがRIZINの舞台に立ったのか。それは、YUSHI自身も、たった数週間前まで予想だにしない光景だった。

物語は大みそかの3週間前にさかのぼる。「大みそか、いけるか?」。突如届いた、RIZIN関係者からの問い合わせ。三浦の相手に決まっていたブラジル人選手が、政府の新型コロナ感染拡大による外国人の入国禁止措置を受け、来日できなくなった。代役のオファーだった。

「やりたいです」。そう返答したが、まず胸の中に沸き起こった感情は、大舞台に立つことができる喜びではなく、「信じられない」といった驚きだった。

高校生の頃、半年間ほど、週2日で格闘技のジムに通った経験がある。ホスト時代は、同業者が集う地下格闘技大会の「宴(うたげ)」で8戦7勝。軽量級のチャンピオンになったこともあった。

ホスト時代のYUSHI(本人提供)

ホスト時代のYUSHI(本人提供)

「RIZINに出たい」決死の覚悟

それでも、本格的にMMAの練習を始めたのはここ1年のこと。試合が正式決定した1週間後も、「本当なのか?」と疑いの念は晴れなかった。

だが、思い起こせば、いつも道を切り開いてきたのは自分自身だった。

団体とのつながりも、「RIZINに出たいです」とSNSで発信したことがきっかけだった。「自分には背負っているものがある」。華やかなホストには、およそ似つかわしくない、決死の覚悟があった。

恵まれたエリート一族といっていいだろう。祖父が産婦人科医、両親がドクターと、医師の家系に長男として生まれた。幼稚園の頃から、母につきっきりで勉強を教えられる毎日を過ごした。文武両道。スキー選手だった父からは、3歳の時からアルペンスキーの英才教育を受けた。週末は長野の別荘から、スキー場へ練習に通った。そして勉強も。両親の期待は大きかった。

小学校の卒業文集に書いた将来の夢は、当然のように「お医者さんになる」。だが、親の敷いたレールの上を走ってきた御曹司は、壁にぶつかったとき、自分を表現する手だてを、まだ知らなかった。

勉強したのに、結果を残せない日々。私立の中学に通うようになると、自身の中で何かがはじけた。

「俺は医者にはならねえ!」と、不良グループの一員に。「やりたいことをやる」と息巻いていたが、高校入学後も、その「やりたいこと」を見つけ出すことすら、できなかった。

転機は、「なんとなく入った」という大学での出来事だった。

「ホストにならないか?」というクラスメートからの誘いだった。