【朝乃山を追う:22年秋場所編】叶わなかった1場所昇格、引退よぎるほど痛恨の黒星

大相撲大関経験者の朝乃山(28=高砂)が関取復帰を目指し、奮闘を続ける。出場停止処分が明け、2場所目となった9月の秋場所(東京・両国国技館)には東幕下15枚目で臨んだ。思わぬ初黒星(6勝1敗)を喫し、来場所での十両復帰の可能性は消滅。頭の中をよぎったのは「引退」の2文字だった。朝乃山のドキュメント、その心中に迫った。

大相撲

10月13日、申し合い稽古で相撲を取る朝乃山

10月13日、申し合い稽古で相撲を取る朝乃山

通過点のはずがまさか…「もう駄目だな、と」

秋場所11日目の9月21日、緊張はなかった。朝乃山にとって、あくまで通過点となる一番のはずだった。

同じく5連勝と無傷だった東幕下28枚目勇磨(阿武松)は気合十分だった。立ち合いでつかまえられず、右に動かれた。

慌てずについていって突き押しで攻めるも決めきれず。さらに右にまわりこまれたが、これもついていって突き押しで攻めた。

しかし、またも決めきれず。さらに右に動いた相手にもついていき、ついに右が差さりかけ、土俵際に追い込んだ。

あと一押し。周囲の誰もがそう思った瞬間、勇磨の必死の左からの突き落としに足がそろった。

上半身は突っ込み、両手が土俵外へぱたり。観客からは悲鳴のようなどよめきが。まさかの落とし穴にはまった。

どよめく館内。頭の中はたちまち真っ白に。何も考えられない。ぼうぜんとしたまま花道を引き揚げた。

支度部屋で帰り支度を整えている時も、まだ何も考えらない。部屋に戻るとようやく感情が込み上げた。

激しく落ち込み、意気消沈。何とか気力を振り絞って、負けた一番を動画で振り返った。

「悔しくて何十回も見た」。そして、1つの思いが込み上げた。

「もう駄目だな、と。『引退』という文字がよぎりました」

昨年5月の夏場所前に不要不急の外出が発覚し、日本相撲協会の事情聴取に虚偽報告するなどした。

当時、協会の看板でもある大関の地位での愚行に、6場所連続出場停止処分という厳しい処分が下った。

7月の名古屋場所が出場停止処分明けとなったが、罪の思いは消えることはない。故に「引退」の文字が浮かんだ。

朝乃山 自分の不祥事、問題を起こして番付を落とした。ケガで番付が下がった訳ではない。周りもそういう目で見ている。だから、あの1敗で「もう駄目かな。引退しようかな」と思うぐらい落ち込んだ。勝負の世界だから負けることもあるけど、それぐらいあの1敗は自分にとっては大きかった。