前橋競輪場で争われるG1・第27回寬仁親王牌は8月23日に出場選手が発表され、開幕まであと5週間とカウントダウンが進んできた。選手は全プロ競技大会の成績を元に選ばれた、スピードやダッシュ自慢ばかり。4日間にどんなバトルが展開されるか!?

今回の【敢闘門】は周長335メートルの全天候型で、超高速バンクの前橋競輪場をチェックする。7月から前橋競輪の選手指導員を務める豊田一馬(43=群馬)に話を聞くと、日ごろの先行型有利の特徴が、こと寬仁親王牌に限っては当てはまらないようだった。

豊田一馬が前橋バンクの特徴を説明する
豊田一馬が前橋バンクの特徴を説明する

豊田は競輪学校73期を75人中5位で卒業し、デビュー2年目にS級初優勝を飾った天才肌。相次ぐケガによりA級に陥落したが、選手生活25年目を迎えて先行やまくり、そして追い込みとあらゆる戦法で前橋ドームを走った自負がある。今回は、酸いも甘いもかみ分けたバンクをともに歩きながら解説してもらった。

直線部の傾斜角は4度。外枠の選手は山おろしの効果もあって内枠と互角のS争いができる
直線部の傾斜角は4度。外枠の選手は山おろしの効果もあって内枠と互角のS争いができる

まず発走機の近くに立つと「バンクを普通の靴で歩くなんて何年ぶりだろ」と笑った。そして、間近にある観客席を見上げて「僕は9番車が好き。前橋は、応援に来てくれた友達や知り合いの声が聞こえたりしてね。いいバンク」と続けた。解説は実際のレースのように、ゴールストレッチから始まった。

発走してすぐは、S争いがポイントになる。走路の幅はどの部分でも9・9メートルと均一で、発走機がある直線部は傾斜角(カント)が4度と大きい。外枠の選手は山おろしの効果もあり、内枠と互角のS争いができる。「1角はカントがさらにきつくなる。発走してすぐは、スピードが出てないからバランスを崩しやすい。難所です」。

センター部の傾斜角は国内の競輪場では最大の36度。まるで壁のような1センターを豊田が歩く
センター部の傾斜角は国内の競輪場では最大の36度。まるで壁のような1センターを豊田が歩く

1、2センターの傾斜角は、国内の競輪場では最大の36度。内圏線から見上げると、まるで壁のように見える。「自転車に乗っていると怖くない。1センターでも2センターでも、この傾斜をどう利用するかがポイント。先行でもまくりでも、センターからコーナーまで山おろしのように踏み出し、直線でスピードを乗せる」と機動型の心得を話した。

豊田が2角で仕掛けるこつを話す
豊田が2角で仕掛けるこつを話す

追い込み型になってからは競り合い、並走のこつを体で覚えた。「やはり競りは内が有利。高速バンクでスピードが上がるから、外は自然に遅れていく」。内と外で有利不利が少ない、400メートルバンクとの違いが分かる。

バックストレッチから3角を迎え、言葉にも熱が入る。

各人の攻防が激化する3角。機動型はたたき合い、追い込み型は最終回にコース取りをせめぎ合う
各人の攻防が激化する3角。機動型はたたき合い、追い込み型は最終回にコース取りをせめぎ合う

「僕が若い頃の話。先行するなら、スピードを上げるのは打鐘だった。それで逃げ粘れた。でも今はギアが4倍近くになって、踏める距離、粘れる距離が伸びた。仕掛けが打鐘よりも前になって、たたき合いが始まるのも早い。寬仁親王牌のメンバーなら、さらに早くなりそう。残り3周の青板近くかな? そうなると、先行選手は逃げ残れるかな?」。

たたき合いが激しくなれば、今度はまくり選手にチャンスが巡る。

「まくりは3角の入り口までに出切ることが大事。センターで前からブロックされると外に膨れちゃう」。

豊田が見つめる先には直線部で車が伸びるイエローライン。寬仁親王牌へバンクチェック 追い込み型もチャンス十分!?は誰が制すか!?
豊田が見つめる先には直線部で車が伸びるイエローライン。寬仁親王牌へバンクチェック 追い込み型もチャンス十分!?は誰が制すか!?

一方、追い込み型はどうか。

「追い込み型が後方になっても、チャンスはなくはない。さっきも話したコーナー部は外に膨れやすい。先手ラインの番手がまくりを張ると、車が外に流れる。それで空いた内を、後ろの選手が突けるかどうか。2センターで内を突き、直線でイエローラインの辺りを伸びる選手が多いのは、そのためです」。

寬仁親王牌は機動型が主役と思いきや、追い込み型にも十分チャンスはありそう。S級トップが切れ切れの動きを見せる4日間が10月5日に開幕する。【野島成浩】