23日から開催されている伊東F1ナイターで印象的なレースが2つあった。

1つ目は初日のS級特選11R。山岸佳太の番手を巡り、大坪功一と山内卓也が競ったレースだ。

前検日、まず先にコメントを出したのは山内だった。G2を優勝するなど、マーク選手としてこれまで確固たる地位を作ってきただけに、強力な自力型の山岸の番手が空いていれば、主張するのは当然の流れだった。

遅れて到着した大坪も「芋を引いたとは思われたくない。山内さんの胸を借ります」と、決断するのに時間はかからなかった。大坪もマーク選手であるし、山内より高い得点を持っているのに他の位置を選べば、周囲から「競りを嫌った」と思われても仕方ない。

別線にも強い自力型がいる細切れ戦で競るのは、勝利からは遠ざかる。しかし、2人には競る理由があり、そこから逃げなかった。

マーク屋の面子にかけて競り合った大坪功一(左)と山内卓也
マーク屋の面子にかけて競り合った大坪功一(左)と山内卓也

山内は「自分の方が点数がないから(礼儀として)外で競ると決めていた」とリスクを負っても挑戦者の立場と美学を貫いた。

2人の目標にされた山岸も、先行のスペシャリストの早坂を相手に主導権を取ったことで、競ってくれた2人に最大限の敬意をはらった。

結果的に山岸も含め、3人とも着外に沈んだが、それぞれが称賛されるべきレース内容だった。

2つ目は2日目のS級準決10Rでの、早坂秀悟と藤井昭吾の先行争いが美しかった。

人気になっていたのは早坂ー大槻寛徳の東北ライン。支線の先行だった藤井がまず先手を取ると、猛然と襲いかかる早坂を全開で突っ張って抵抗。それでもスピードで勝る早坂が強引に主導権を奪い取った。

勝った大槻が「早坂君が思いのほか藤井君にてこずったね」と語ったように、早坂は先行争いでかなり脚力をロスして、4角から失速してしまった。

レース後に藤井は「合わせ切ったと思ったのに、上を行かれてしまった」と悔しがった。

早坂は「3着までに残れなければ駄目ですよね」とまず反省の弁が出た。

準決10Rは藤井昭吾(左)と早坂秀悟が先行屋の意地をぶつけ合った
準決10Rは藤井昭吾(左)と早坂秀悟が先行屋の意地をぶつけ合った

別々に話を聞いたのだが、2人とも「また練習してきます」と同じ言葉でインタビューを締めくくり、どこかすがすがしい表情だった。

これは「先行選手としてやるべき事はやった」という満足度が敗戦の悔しさを上回ったからだろう。

このように、先行選手もマーク選手も目先の勝ち負けを度外視してもやり合わなければならない場面がある。

競輪には「称賛される敗戦」があり、目の肥えたファンもこれをよく分かっているのだ。【松井律】