諸橋愛(40=新潟)がデビュー21年目にして、悲願のビッグタイトルを手にした。新田祐大の内をすくった平原康多を懸命に追って差し切り、G2初制覇を決めた。これで賞金ランクも7位へ急上昇し、KEIRINグランプリ(GP)が視界に入ってきた。2着は平原、番手まくりを放った新田はさばかれて3着に終わった。

 最終4角、諸橋は外の新田と内の平原との間の狭いコースをこじ開けた。「あ、抜けてる!」。平原をかわしてゴールすると自然と右手が挙がった。「正直、優勝できると思っていなかった。チャンスがあればとほんの少し思っていた」。涙はない。堂々と胸を張って優勝杯を手にした。

 「自分は天才肌じゃないので、若いときはそんなに強くなかった」。デビューして丸20年。ベテランの域に達してのビッグ初制覇に影響を与えた男が2人いた。1人は江嶋康光氏(39期=引退)。「体力が落ちてきた時に江嶋さんに出会った。それがなければここにいなかった」。現役時代のストイックさは輪界の語り草。現在もマッサージを通じて心身のケアを受ける選手が全国にいる。

 そして、他地区のライバル成田和也(38=福島)の存在だ。11年の東日本大震災を機に弥彦バンクを訪れるようになった。「成田と出会って、いかに足りないかがわかった」と常々語っていた。北日本を代表する追い込み選手に刺激を受けた。その成田が諸橋の胴上げに手を貸した。「オレも諸橋さんと練習して強くなれた。もちろん胴上げします」とわが事のような笑顔を見せた。

 「努力してあきらめなければ、狙えるところまで来られるのかな」としみじみ語る。長い冬を経て咲く新潟の花のように、努力の種が武雄で開花した。賞金ランクは7位に浮上。「自分も狙えるところまで来たのかな。残りのG1も集中してGPに出られたら」。不惑にしてつかんだタイトル。諸橋の春はこれからだ。【山本幸史】