中村尊(38=埼玉)は、8Rの1走を3着で終えた。

風速5Mの左横風が吹く中、4コースカドからコンマ10でスリットを通過。そのまま伸びていったが「スタートして少しのぞいたので、差すかまくるか迷った」と、攻め切れなかった1Mを振り返った。

それでも前日までの得点率争いの4位に踏みとどまり、「何もしていないけど出足、回り足中心にいいです。節一です」と宣言した。予選最終日の22日は、8R1枠と点増しレースの12R4枠から逆転での準優1枠取りに挑戦する。

その中村は、出力低減エンジン導入以降の日本最速レコードを持っている。18年12月9日に芦屋の11Rで逃げ切り、1分44秒2を記録した。

「スピードとタイムを意識するようになったきっかけは、まず、クビにならないようにするためには、どうしたらいいかというところから逆算して考えたんです。強い選手を研究したら、みんなターンが早いことに改めて気づいたんです。それで意識的に、自分も早いターンをするように心がけるようになりました」とスピードスターへの第1歩を振り返る。

「モータースポーツはスピード! ここが重要です。でも今の自分はまだ、単に時計が出ているだけなんです。レースに行ってどれだけ展開を突ける早いターンができるか。自分の課題です」。

お世辞抜きでトップ選手であるはずの中村。その中村が考える強い選手、超トップ選手とは「峰(竜太)や(桐生)順平です」と名前を挙げる。

半分以下のスピードしか出ないペアボートに、必死でしがみついていた経験しかない記者には、実際のハンドル操作など分かるはずもなく思案していると、その様子に気づいた中村が「峰や桐生のハンドル操作は多分、こんな感じです」と左手を開いた状態から、握って再度開くまでを実演してくれた。その時間を言葉にすると『いち、に』または『パッ、パッ』となる。秒数に直すと2秒。いや1・5秒程度かもしれない。

一緒に走った経験から「おそらく(彼らは)ハンドルもほとんど切っていないはず」だと分析する。加えて「ターンで(レバーを)落としている時間が圧倒的に短いと思います」という。

SG第46回ボートレースオールスターが21日、福岡で始まった。12レース・ドリーム戦に、くしくも中村の言葉に出てきた峰と桐生が出場した。原稿を書く手を止めて、中村の言葉を頭の中で思い返しながらテレビ観戦。1Mを回った際、1コースから素早いターンで逃げる峰と3コースから鋭くまくった桐生の一騎打ちになった。競馬の実況でよく聞くフレーズ「どこまで行ってもこの2頭(人)」が頭をよぎる展開だった。

通常は早々に3着争いに切り替えられるカット割り。しかし福岡のテレビ室のスイッチャー(複数のカメラから写したい1台を決める担当者)は6回のターン全てで峰と桐生を見せた。

取材の別れ際「オレ、順平の大ファンなんです。マジで応援しています。あいつにすべてのSGを取って欲しいんです」。そう語った中村の後ろ姿を思い出しながらゴールを見届けた。

福岡の桐生は22日、前半3Rに出走。締め切り予定時刻は午前11時32分だ。そのころ徳山では、中村がおよそ50分後に発走を控える自身の8Rに向けて集中しているだろう。

22日、ファンには福岡の桐生、そして徳山の中村の走りをぜひ見ていただきたいと思う。