シーズンも残りわずか。コロナ禍の中で始まった2020シーズンも佳境に入った。2週間に1度のPCR検査を受けながら過密日程をこなし、なんとかここまで来た。最後の最後まで気を抜くことはできない。ただ、問題は今シーズンを終えることだけにとどまらない。

それは、来シーズン以降もこのコロナ禍はきっと続くということ。今シーズンをただ乗り越えるだけでは、その場しのぎの応急処置にしかならない。より大きな問題として見えてくるのは、クラブの経営と選手の年俸だ。

観客動員数の急増が見込めない中、複数のクラブがクラウドファンディングをし、資金集めを始めた。ほとんどのクラブが成功しているが、個人的にはクラウドファンディングはお金のなる木ではないということを理解しているのかどうか不安になる。各クラブの苦しい状況をファン、サポーターも理解しているし、スポンサーも急な撤退はしたくてもできなかったはずだ。

ただ、コロナで苦しいのはクラブだけではない。これはある一定の地域やクラブだけに起こった災害などではない。日本国民全員が受けている被害であり、来年、その被害はもっと深刻になる可能性がある。今年はクラウドファンディングでなんとか資金調達ができたかもしれないが、先ほども述べたようにクラウドファンディングは金のなる木ではない。

僕はJリーガーを目指し始めた時にクラウドファンディングを行った。当時は「うさんくさい」や「詐欺だ」など多くの否定的な意見を受け、僕の挑戦自体にもたくさんの批判が集まった。その時に出演させていただいたある番組では、司会者から「あなたには3000円も寄付する気にはなれない」「応援できない」などと言われ、少々言い合いになる場面もあった。その一部始終はオンエアでは見事にカットされていたが(笑い)。

クラウドファンディングを行って40歳でJリーガーを目指したからこそ、その良さも脆さもわかっている。僕はJリーガーを目指す上で3度のクラウドファンディングに挑み、そのうち2度の成功と1度の失敗を経験した。振り返ってみると、2度の成功は目的が明確だった。

ひとつ目は実際にJリーガーやプロ野球選手も通うジムで、プロを目指すために必要なトレーニングを行うための資金だった。4カ月間で85万円が必要だったクラウドファンディングは、160人の方の支援をいただき、121万円が集まった。もうひとつはJ2水戸ホーリーホックに練習生として加わった際に、沖縄キャンプへ行くことになった。その渡航費や宿泊費、食費などの費用をクラブに負担してもらわず、クラウドファンディングで募り、成功した。

一方で、失敗したのは2度の成功したクラウドファンディングの間に行ったものだった。沖縄で自主トレキャンプをし、プロテストに向けた最終調整をするための費用。これが見事なまでに大ハズレだった。3度とも「Jリーガーになるため」という明確な目的があったが、それだけでは資金は集まらない。信用というその人の行動が共感を生み、感動へと変わるアプローチができているかどうかでその結果は大きく分かれてくると感じた。

ジムでのトレーニング費用を募った時は、仕事も全て辞めて収入が0円になっており、自分の覚悟を示した。水戸での沖縄キャンプの際は、練習生としてJクラブに加わり、そこでもがき苦しむ姿をSNSで発信した。どちらも見てくれた人たちに共感や感動を与えられたからこそ、成功へとつながったのではないかと感じている。失敗した2度目の沖縄キャンプは、そこにつながる助走が全くなかった。なぜ沖縄で、なぜそれが必要なのかという点が見事に欠けていたのだ。

だからこそ言える。クラウドファンディングは継続的に困難な状況を改善するには不向きなツールなのだ。クラブが経営難に陥った大きな原因のコロナは来年も再来年も襲ってくる可能性がある。そのたびに、クラウドファンディングをしても、それはサポーターやファンに痛みを背負わせているだけだ。

また、いくつかのクラブのクラウドファンディングを見たが、何に使われるかという具体的な内容があまり記載されていない。サポーターやファンはそのクラブが大好きだから支援をすると思うが、そういった善意に甘えた経営はもろ刃の剣となる。クラブがどんなアイデンティティーを持ち、その目指すべきビジョンが明確で、それに対して必要な資金であればこれからもサポートする人はいるだろう。しかし、今回のようなやり方は今年だけだと思った方がいい。何度も言うが、経営が厳しいのはクラブだけでなく、一個人も一緒なはずだ。

来年も今年と同じか今年以上に厳しい状況が予想されることは間違いない。コロナ禍で受けた損失をファンやサポーターに負わせるのではなく、クラブアイデンティティーを前面に押し出し、サッカークラブがコロナ禍でも存続できるあり方を未来に向けて掲げてもらいたい。

もうひとつは選手の年俸だ。ここで問題なのは今までのように選手がクラブやJリーグに依存し、なんとかしてくれと人任せにしてしまうことだ。コロナ禍で観客が減り、スポンサー企業もダメージを受けている。30歳以上で高額年俸の選手は0円提示を受ける可能性が高い。年俸を生活費とイコールで考えている選手にとっては非常に苦しい現実が待っていると思う。

年俸を選手の評価価値と捉え、その評価であるお金を選手の価値を上げるために使うのではなく、生活のために使う。すると、選手の価値を表すお金がなくなった場合、その選手は自分の選手としての価値をお金に変えられなくなる。少しでも今の評価でもらっている年俸を、選手としての価値向上への投資、もしくは人としての価値向上への投資として考えておくことができれば、年俸=生活費で生きているJリーガーが陥る苦しい時代の到来に太刀打ちできる力が構築されていくと思う。

Jリーガーの選手価値を表すものがお金の時代ではあるが、そのお金を払えなくなるクラブが増えることで、選手は自分の評価価値をお金という数字で表してもらえない時代に入る可能性がある。先ほども述べたように、何年も選手生活を続け、フィジカルの変化を迎える30代の選手が最も大きな影響を受けるだろう。そこには評価とその年俸に開きができてくるはずだ。

改めてここで伝えたい。年俸120円をバカにしていたみなさん。もしかすると、評価基準を選手としてクラブに委ねず、1人の人として社会に委ねる方法が主流になる日が来るかもしれない。世の中が急速に変化する現代において、今までの常識を絶対だと思うことは非常に恐ろしい。大好きなサッカーを継続したいのであれば、年俸を生活費とイコールで考えず、選手としての評価基準をクラブに求めず、人としての評価基準を社会に求めることを勧めたい。

そうなれば、サッカー選手のセカンドキャリア問題なども含め、人生の選択肢をもっと多角的に捉えることができるだろう。コロナというウイルスに負けないためには、今まで通りに戻すことを目指すのではなく、変化する世の中に順応し、適応していく能力が求められると思う。

今季も残り6試合。年俸120円Jリーガーは来年の不安を感じることなく、最後まで必死に笑顔で突き進んでいく。(J3、YSCC横浜FW)(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「年俸120円Jリーガー安彦考真のリアルアンサー」)

年俸120円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(左から2人目)
年俸120円Jリーガーとして奮闘するYS横浜のFW安彦(左から2人目)