前回はファイナンシャルフェアプレー※(以下FFP)の導入が及ぼしている影響についてお話しさせて頂きました。実際のところパリサンジェルマンやマンチェスターCが裏で便宜を図っていたのではないかなどと言う報道が出てきております。

1月の移籍マーケットがどのようになるのかという部分も非常に興味はありますが、今回はFFPをうまくくぐり抜けている例を見てみたいと思います。


海外の企業がスポンサードする目的を考えてみます。まず一番イメージしやすいのが日本でも行われているプロモーションを含めた宣伝広告になるかと思います。CSR(企業の社会貢献活動)などのケースもありますし、企業としてスポーツ選手・団体を応援するという目的もあり、非常に多岐にわたります。

特にビッグクラブを用いたビジネス用途の使用はプロモーション、ブランド認知度の向上という部分では格好の打ち上げ花火となります。そしてそこには測定不可能とも言える大きな影響力があることでしょう。そういった中でFFPのルール設定は、基本的にはこのスポンサードを利用してお金を集めて運営しましょう、というメッセージ性が強いようです。

FFPは赤字経営の慢性化による財政破綻を避けることが最大の狙いですが、同時にUEFAは関係会社との過大なスポンサー契約を禁じており、特にオーナー・カンパニーが運営母体の場合は財政悪化がクラブ運営に大きな影響を及ぼしますので、これはそういったことからクラブを守るという目的があります。

さらに、オーナーによる赤字補填(ほてん)の禁止や、クラブの独立採算運営も義務づけています。1つの財源に頼ったクラブ運営は高いリスクが伴います。FFPのルールとともにチーム改革をうまく行うことができず、失脚してしまったケースがミランやインテルのケースなのは、前回お話しした通りです。

一方で、このFFPにうまく対応しているのがチェルシーです。1905年に設立された100年を超える歴史のあるチームです。2000年代に入りチーム財務が悪化していたところで、ロシア人富豪のロマン・アブラモビッチに買収されてチームが変貌を遂げたのは皆様の記憶に新しいと思います。昨今のニュースではそのアブラモビッチがチェルシーを売却するのでないかというような報道も見受けられますが、この裏にはいろいろな思惑を垣間見ることができます。

スポンサーもオーナーが関連する会社のような状態でしたので、オーナーであるアブラモビッチが手を引いた瞬間にチームの経営が傾いてしまいかねないこの状況は望ましくないということで、外部からメスが入りつつありました。

さらに「オーナーによる赤字補填の禁止」や「クラブを完全な独立採算で運営する」という観点から、チェルシーはミランやインテルのケースになりかねません。

しかしながら昨今の報道でチェルシーが取り上げられることはありません。チェルシーがロシアの天然ガス会社であるガスプロムとスポンサー契約をしたのは2012年。アブラモビッチはガスプロムのオーナーでも株主でもありませんが自身がオーナーであったシブネフチ社(ロシアの石油企業)を2005年にガスプロム社に譲渡した経緯がありました。実質的にガスプロム社はアブラモビッチの息がかかっている会社であるように見えます。そして現在ではこのガスプロム社がUEFAをスポンサードしていることからUEFA自体も立場上ものを言えない状況になっているのでは?と見えかねません。

非常にグレーゾーンでもあるこの関係性をどこまでラインを引くのか業界が大きく注目している部分でもあり、同時にこれがまかり通ればFFPの抜け道として認められかねないこのシステムの是が非を問われる部分でもあります。次回はもう少しこの部分をのぞいてみたいと思います。【酒井浩之】

(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)


※ファイナンシャル・フェアプレー=UEFAが2014年から導入したクラブ経営健全化を図る規則。クラブに規定の額を超える赤字があった場合、CL出場権剥奪など様々な罰則が科せられる。