ご存知の通り、長年バルセロナで活躍を続けてきたアルゼンチン代表のメッシ選手が突如退団することが発表されました。そしてパリサンジェルマンへの移籍。わずか数カ月前までは、移籍金に1000億円を超える金額が必要とも言われ、さらに涙の退団記者会見前日にも現地報道で5年契約間近ともされていましたが、突然の出来事に世界中が驚きました。

今回原因となったといわれているのが、欧州各国のリーグで唯一ラ・リーガのみが採用しているサラリーキャップ制度になります。リーガのテバス会長が現ポジションに就いた2013年から導入され、各チームが保有する個々の選手の契約額、および全選手の契約年俸の総額を毎年一定の上限を設けて規定する制度であり、天文学的な移籍金・違約金での支払いを回避し、そういった大きな金額の分割払いも禁止することでクラブの赤字経営を回避することが目的です。

今回メッシ退団の原因となったのはこれだけではなく、実はもう1つあります。法律上スペイン特有の会計方式になると思うのですが、カンテラ育ちの選手でそのままトップチームに上がった選手に関しては、リーガでは無形固定資産として貸借対照表に計上されており、人件費としては計上されないということがあります(つまりサラリーキャップの対象外)。メッシはカンテラ上がりの選手ですから推測するに、長年にわたって人件費計上されていなかった可能性が高いのです。しかし1度契約が切れてしまったので、再契約に伴いその年間7000万ユーロ(約90億円)近いとされる年俸が表面化して人件費として計上せざるを得ない状況になってしまったということにもなります。

今回バルセロナに起こったことは、クラブの収入に対して人件費を70%に抑えなければいけないという制度による部分ですが、年間1200億円近い売上を誇るチームでしたので、この時点で人件費を840億円前後に抑える必要性がありました。コロナウイルスによる経済ショックが重なったことが決定的なダメージになったことは否めません。チケット売上損失で約200億円近く年収がダウンしたとありましたから、これによって総収入が1000億円になると、人件費は700億円に抑えなければならない計算になります。つまり、単純計算で当初の58%前後に抑えなければならないということになってしまいます。

昨年から、長年の功労者であったラキティッチやスアレスを半ば無理矢理退団へ追い込んだだけでなく、今年に入りマテウス・フェルナンデスに対して契約を一方的に破棄したような報道がありました。裁判になってもおかしくはない状況で、バルセロナ会長のラポルタ氏のその後の談話で、基本的にはこのようなやり方は裁判で負けてしまう可能性が高いという発言もありました。こういった一連の動きから、なんとかして人件費を抑えなければならなかったということが読み取れます。(その一方で選手を新たに獲得しておりますが、おそらく報道に出ているような金額では契約しておらず、想像以上に低い金額でのディールであることが考えられます)。

天文学的な金額を支払うクラブがあったかどうかは別問題ですが、1000億円を軽く超えるというバルセロナの負債を解消する方法が、昨季終了後に動きがあった契約期間内におけるメッシの売却であったことには間違いと思われます。こうなると前バルセロナ会長のバルトメウ氏の経営手腕に改めて目が向けられてしまいますが、振り返ってみると、そもそもサラリーキャップによってリーグの赤字が解消され、より競争力が高い、魅力的なリーグを作っていくという部分でリーグそのものが再生する可能性はあります(実際実現しつつあります)。しかしラ・リーガ会長テバス氏のリーグを再構築するために設けた制度そのものが、リーガのチームが欧州の舞台で勝てなくなるという、自らの制度で自らの首をしめているような気がしてなりません。スペイン国外に1歩出れば、多国との競争には分が悪く、このままでは生存競争に負けてしまうと感じた欧州チャンピオンズリーグ(CL)の結果からすると、国際サッカー連盟(FIFA)・欧州サッカー連盟(UEFA)そのものがサラリーキャップを導入するなどして統一の規制を設けるべきという話になるのではないでしょうか。もしくは認められるのかはわかりませんが、レアル・バルサ・アトレチコといったリーガのクラブがUEFA管轄の大会を勝ち抜くために、リーグ戦には関与しない、CL・ELの大会専用の選手の獲得、専用のチームづくりといった新しいやり方もあるのかもしれません。次回は、リーガが発表したCVCキャピタルパートナーズとの提携について触れたいと思います。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)