前回はフランスリーグについてのぞいてみましたが、今回はクラブの方に目を向けてみたいと思います。フランスを代表するクラブといえば、マルセイユやリヨンという名前が出てくるわけですが、今回は、今最も注目されているクラブと言えるパリ・サンジェルマン(PSG)を見てみたいと思います。

クラブ自体の創設は1970年と比較的新しいクラブです。しかも前年にできた新設クラブと合併して誕生した背景を持つ、やや珍しいクラブです。3年でリーグアン(1部)に昇格するなど急成長しました。4年目に昇格してから長きにわたって1部での活動をキープ。1991年にフランスの大手テレビ局が買収し、スター選手を次々と補強。UEFAの大会でも好成績を残すなど躍進したことは、ご記憶の方もいらっしゃるでしょう。しかし2006年にテレビ局が経営から離れると、成績は急落。不動産投資会社が手を差し伸べる形でサポートしてなんとか危機を乗り越えると、2011年にカタール投資庁の子会社であるカタール・スポーツ・インベストメント(QSI)がクラブの筆頭株主になります。欧州サッカー連盟(UEFA)のルールでは国家が背景にあるような投資会社がクラブのオーナーになることは基本的に禁止されていたのですが、これはあくまでもUEFAの管轄内(EU圏内)での話ということで、カタールはEU圏外であるから、これを認めざるを得なかったということで当時は物議をかもしました。これは2008年のUAEの投資グループがマンチェスター・シティーのオーナー権を獲得したことから一気に加速したと言われており、中東のオイルマネーがヨーロッパ市場に入ってくるきっかけともなりました。

PSGの売り上げは以下のようになっており、約10年で約6・5倍(ユーロベースで)に成長するなど大躍進を遂げています。

2011年 100MMユーロ(約130億円)

2015年 484MMユーロ(約630億円)

2019年 659MMユーロ(約856億円)

しかしながら内訳を見ると6割近くをスポンサー関連のマーケティングでの売り上げを占めており、放映権の売り上げはわずか20%前後です。他のビッグクラブのような30~40%を占めるところまではいっていません。フランスリーグは2018年に巨額な放映権売却契約を獲得するも、わずか半年でプロジェクトが頓挫するなどし、契約は破棄となったこともありました。

次に利益部分を見みましょう。2017年から赤字計上が続いており、なんとか選手の売却で収支を保ってきました。さらに近年はスポンサー金額を増額するなど、無尽蔵の懐をうまく活用するなどして多くのスター選手を獲得するも、8月に超過状態でも1月に選手を売却することで帳尻をあわせてきました。2019年からはなんとか収支を保ってきましたがこの手法そのものが疑問視されています。近いうちにUEFAの規制が敷かれるともうわさされていますが、ナセル・アル・ケラフィ会長がそのUEFAの執行委員に選出されており、UEFAの最新の動きを入手することができる立場でもあります。

この夏もセルヒオ・ラモス、ドンナルンマ、ワイナルドゥム、ハキミの4選手を次々と獲得。その年俸を合わせると、ざっと約8000万ユーロ(約100億円)ほどの人件費が加わることになり、更にメッシが加わったことで、合計約1億4100万ユーロ(約183億円)の人件費がかさむことになりました。当然収支のバランスは取れておらず、この1月の市場で数選手の売却が求められるわけですが、一体どの選手がいくらで売られるのか、注目しても面白いのではないでしょうか。

最新情報ではニューキャッスルにサウジアラビアの巨額マネーが流れ込むというニュースが入ってきており、中東マネーの流れはしばらく続くのかもしれません。

【酒井浩之】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「フットボール金融論」)