日本サッカー協会の前技術委員長、霜田正浩氏(50)が国内外のサッカーの話題に加え、日本代表戦まで解説するニッカンスポーツコム独自のコラム。今回はタイ・サッカー協会から代表監督就任オファーを受けたことを、自身の言葉で伝えます。

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 バンコクに行ってきた。今月中旬に現地でも報道されたが、名誉なことに次期タイ代表監督候補のリストに挙がり、会長以下役員のメンバーと面談するためだ。

 実は1月にも、アンダー・カテゴリー代表監督のオファーを受けていたが、先方の事情でタイミングが合わず、断念している。しかしタイ協会は、その時のことを覚えてくれていて、再度声を掛けてもらい、今回の訪問に至った。

 代表チームの強化は独特である。

 (1)U-15(15歳以下)からAまでの代表チームのピラミッドをきちんと整備すること。

 (2)その国のリーグの発展も合わせて考え、両輪としてうまく歯車をかみ合わせること。

 (3)世界の中で、自分たちの現在の立ち位置を正確に把握すること。

 などなど、無数の仕事を並行してこなす必要がある。ただ一つのチームだけ取り出しても、その強化は単発で、瞬間風速的な取り組みになってしまう。

 代表監督は常に、国民の期待や批判を受ける。結果がすべてではある。だからこそ、結果を出すための人事のプロセスは大事で、確かなコンセプトやガイドラインが必要だ。どのような強化をしてほしいか、どのような試合をしてほしいか、協会側のリクエストとその監督の哲学や指導理論を合わせる必要がある。こうやって技術委員会では、日本代表監督を選んできた。

 代表監督を選ぶ時期になると「世界的な知将、元スタープレーヤー、監督としての実績」など、ファンやサポーターの意見は分かれる。それぞれ興味を持って、酒場で語り合うことは、日本のサッカー文化定着にいいことだと思うし、成熟していく段階といえる。だが、決める人たちは事前調査も含め、的確なタイミングで人選を進め、予算的な制限もある中、最善な交渉をしなくてはならない。

 タイ協会でのプレゼンでは、日本代表の強化に費やした8年間の経験も話した。日本同様の強化はできないが、ほとんどの選手が自国でプレーしているタイだからこそできる方法もある。ほとんどの代表選手の情報は、過去の対戦で把握していたが、もう1度すべての試合を見直し、レポートを作り、チームとしての強みと弱みを正確に分析して伝えた。どのようなプレーコンセプトで戦うのかも大事な擦り合わせだ。現在、W杯最終予選を戦っており、残る対戦相手の情報も伝えた。日本との対戦が終わっているのが本当によかった。

 私は監督としての経験値が低く、実績がないのは自覚している。ただ指導者経験はいろんな監督の元で積んできたし、下積みもさまざまなチームでしてきた。「自分が監督なら…」という準備は04年にS級ライセンスを取得してから人一倍してきたつもりだ。Jクラブや日本代表で現場と強化部門を経験してきたことには、自信と誇りを持っている。

 結果、W杯での実績が判断の最終基準となり、私は代表監督に選出されなかった。当然、世界中に私よりふさわしい人物はたくさんいる。最終候補リストに入れてくれたタイ協会に感謝し、今後の発展を祈る。

 ハリルホジッチ監督、田嶋会長、西野委員長始め、日本協会の方々にも応援していただいた。感謝とともに「自分の経験をそのチームのために生かしたい」という思いが、さらに強くなってきた。