J1経験もなく5年間、海外でプレーを続けた異色DFが来季のJ復帰を視野に動き始めた。柴村直弥(33)。中大卒業後、J2の福岡と徳島、JFL鳥取、当時地域リーグの藤枝MYFCでプレーし、11年に28歳で海外へと飛び出す。

 海外は中学3年からの夢だった。イタリア・ACミランユースに1カ月の短期留学。サンシーロでのミラノダービーでボールボーイを務め、ロナウドを間近で見た。「こういう大きな舞台にいつか立ちたい」。その夢をあきらめることができなかった。地域リーグからの海外挑戦は無謀にも思える。「普通ならJ1、代表を経て欧州移籍ですよね。友人からも引退したら、と言われましたよ。でも、自分の中での成長を感じていたし、何もしないであきらめたら後悔すると思った」。

 代表歴もない無名の日本人選手をどうアピールすべきか。まずは、自分の特長を知ってもらうために、過去の試合映像から「対人や空中戦の強さ、スライディングが出ている場面」を自分の手で編集し、資料映像を製作した。飽きずに見てもらうために「尺」は9分15秒にまとめる工夫もこらした。「見て良かったら呼んでみよう、と思ってもらえたら」。

 努力が報われ、ラトビア1部ベンツピルスに練習生として声がかかる。欧州では、練習生が次々とやってきては消えていく。中には1、2日でいなくなる選手もいた。1カ月間、練習参加しても突如帰らされるケースも目の当たりにした。1カ月半の練習期間を経て、念願の契約を手にした。

 左利きのセンターバックの特長を生かし、公式戦出場のチャンスを得た。「海外選手枠で出場する以上、下手なプレーはできない」とプレッシャーがかかった。「1対1では絶対に止めないといけないし、相手が数的優位でも何とかしろ、と。地元の選手と同じプレーでは使われないし、中心選手にならなくてはいけない。そのプレッシャーの中で試合ができたことが大きかった」。

 球際の激しいリーグで190センチ以上の大型FWを相手にすることで、空中戦にも磨きがかかった。主力選手としてリーグ、カップ戦の2冠に貢献し、UEFA欧州リーグにも出場した。その後、ウズベキスタン、ポーランドでプレー。今夏、ポーランドの在籍クラブの事情もあり帰国した。

 現在は、J復帰を求め、湘南での練習に参加中。60分の紅白戦では、高いヘディングに曹貴裁監督から「ナイス」の声がかかったほど。「速い攻守の切り替えと球際の強さ」を鍛えられている湘南のメンバーからも「めっちゃ、球際が強いですね」と一目置かれている。

 現在、33歳。年齢的に「引退」の足音も聞こえるが、本人は「まだ成長したいし成長中」と掲げる。福岡時代、30メートル走はチームで3位だった。5年前から陸上のトレーニング方も取り入れ「スピードには自信がある。今、同じテストをやっても、以前よりタイムがいい」と胸を張る。目標達成のために突き進む苦労人のサッカー人生はまだ終わりそうにない。【岩田千代巳】

 ◆岩田千代巳(いわた・ちよみ) 1972年(昭47)、名古屋市生まれ。お茶の水女子大卒業後の95年、入社。文化社会部で芸能の音楽を中心に取材。12年11月、静岡支局で初のスポーツの現場に。13、14年磐田担当。15年5月、東京スポーツ部に異動し、川崎F、湘南担当。高校、大学はピアノ専攻も卒業後はほとんどピアノに触らず。