あの18分間の講義は何だったんだ。日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督(65)は、9月28日にJFAハウスで開いた代表メンバー発表会見で、いきなり講義を始めた。メインのはずのメンバー発表を後回しにして、前日の欧州CLパリサンジェルマン-バイエルン・ミュンヘン戦の手書きデータをホワイトボードに貼り付け、ポゼッション(ボール保持)を重視する日本のスタイルに疑問を呈した。

 その試合でパリサンジェルマンはポゼッション率37・6%で、62・4%のBミュンヘンに圧倒された。パス本数も368本で、相手の568本より200本も少ない。CKは1対18、クロスも4対36と、数字的には一方的に圧倒されるペース。試合展開の中で唯一勝っていたのはデュエル(決闘=ボールの奪い合い)率で57・4%対42・6%で、スコアは3-0の圧勝。ハリルホジッチ監督は「日本のサッカーの教育はポゼッションをベースに作られている。だが相手よりボールを持ったからといって勝てるとは限らない」と説明した。

 その後の初戦。日本は6日のニュージーランド戦(豊田スタジアム)で圧倒的にボールを保持しながら、2-1で辛勝した。シュートミスや敵陣内でのパスの微妙なずれがあって、FIFAランク113位の格下相手にホームで大差を付けられなかった。球際の強さも目立たない。ボール保持率は、相手の39%に対し、日本は61%だった。数日前にハリルホジッチ監督が否定していたBミュンヘンの戦いで、数字上は目指すサッカーの正反対を行く流れだった。

 デュエルを徹底させるなら、わざと相手にボールを持たせて、高い位置から積極的にボールを奪ってから逆襲する流れを作るしかなかった。しかし、ピッチ上では従来のやり方が繰り返されただけ。実戦で試さない理想なら、口にするべきではない。選手たちを混乱させるだけだ。今の選手たちが、指揮官の理想に共感しているとも限らない。

 W杯ロシア大会まであと8カ月。指揮官は、自分が理想とする「激闘」を日本代表に植え付けることができるのだろうか。来月のブラジル、ベルギー戦なら、力関係上、監督が目指す構図が自然と出来上がる可能性が高い。しかし本大会まで、世界の強敵と戦うチャンスは、4試合程度しかない。心配は募るばかり。私の目には、解決の糸口は見えない。【盧載鎭】

 ◆盧載鎭(ノ・ゼジン)1968年9月8日、韓国ソウル市生まれ。88年に来日し、96年入社。約20年間、サッカー担当。3年前からフェンシングに興味を持ち、最近そのフェンシング日本代表(女子サーブル)を取材する機会に恵まれた。2児のパパ。