W杯ロシア大会では、初導入されたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が観客、選手らに大きなインパクトを与えた。当初はその存在にやや違和感もあったが、大会後のJリーグの試合などを見ていると「これはVARだ!」と思ってしまう場面が多々あり、すっかりとなじんでしまった。

 この新システムについて、日本初のプロ主審で、98年W杯フランス大会など多くの国際試合やJリーグで笛を吹いた元国際主審の岡田正義氏(60)に話を聞き、7月14日付の紙面に掲載した。その中で、VARに関する疑問から、それ以外の判定にまつわる話など、紙面で掲載しきれなかったものをここで紹介したい。

 -主審の(手で四角をつくる)ポーズの意味は

 岡田 VARの映像を見に行く時にやるポーズです。あとは、映像確認後にVARで判定を変えましたよという合図です。

 -1次リーグの日本対コロンビア戦では、前半6分の日本の先制PKにつながるハンドを犯したコロンビアのC・サンチェスには一発レッドカード。一方で決勝トーナメント1回戦のスペイン対ロシア戦の前半40分に、ロシアの右CKでFWジュバのヘディングシュートがDFピケの手に当たった場面では、ピケにはカードなしのPK判定となった。この差は何なのか。

 岡田 日本戦のレッドカードは、得点の阻止。ハンドのイエローカードというのは、例えばシュートを手で止めたのはイエロー。ゴールががら空きだと得点の阻止でレッドカードですけど、GKがいたり、ボールがゴールに向かっているものを止めるとイエロー。そのほかのものには特にカードは出ないんです。例えばクロスボールでチャンスになるものを止めたらイエローになりますが、(ピケの例の)あのシーンは難しいところですけど、そんなにチャンスになるところではないという判断でカードは出なかったのかなと。そして、選手から見えていない、後方からきたボールが手に当たった場合は、そこにボールが来ることを予期できている状況ならハンドになる。ジャンプするために手を上げてしまっても、予期できるところで当たってしまうとハンドになるんですよ。

 -今大会ではブラジルのFWネイマールの演技、いわゆる「ダイバー」とされる選手は意識するか

 岡田 意識というか、主審は担当するチームの事前情報は全部持っているんですよ。誰がキープレーヤーで、戦術や、どんな特色があるのかなどを入れて臨んでいる。ただ、それが先入観になってはいけない。でも彼(ネイマール)がボールを持つと、そういうことが起きると予測してみることで、正しい判定に結び付けるということはできるということですね。例えば、プレミアリーグではチーム戦術を主審に教える係の人がいますし、海外のトップリーグではそういうことをやっている。

 -ロスタイムを測るために主審が時計を止める基準やタイミングはどこか

 岡田 けが人が出た時や、けがの程度などを確認する時、選手交代とかですね。あとは時間稼ぎをする選手がいればその分伸ばします。

 -交代選手がゆっくり歩いてピッチを去るときも時計を止めている?

 岡田 そうですね。時間の浪費なので。なので、ゆっくり歩いても本当は無駄なんですよ(笑い)。よくロスタイムに選手交代をすることがありますが、あれも無駄になります。余計にレフェリーはロスタイムを長くとりたくなっちゃうので。やらない方が試合は早く終わると思います。戦術的に本当に代えるならいいですけどね。

 ◆VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー) 試合中の微妙な局面を映像で確認し、主審に伝えて判定を手助けする「ビデオ副審」。(1)得点(2)PK(3)一発退場(4)警告などの選手間違いの4項目で主審を補助する。W杯ロシア大会では国際審判員が任命され、3人の補佐役(AVAR)とチームを組んでモスクワの視聴覚室で作業する。スローモーション専用を含む30台以上のテレビカメラからの映像を検証。VARからの助言を受けた主審は一発退場や、得点場面で攻撃側の反則が疑われる場合などは、自らの意思でピッチ脇に設置されたモニターで映像を確認することができる。

 ◆松尾幸之介(まつお・こうのすけ)1992年(平4)5月14日、大分県大分市生まれ。中学、高校はサッカー部。中学時は陸上部の活動も行い、全国都道府県対抗男子駅伝競走大会やジュニアオリンピックなどに出場。趣味は温泉めぐり。

VARの機材をチェックするスタッフ
VARの機材をチェックするスタッフ