高校サッカー選手権は残酷だ。注目選手を擁する優勝候補は時にプレッシャーに負けて早々に敗退していく。最後まで勝ち上がったチームが真の“強豪”ともいえるが、前評判通りにいかないところが人々を引きつけるのかもしれない。

大会前から注目していたのは矢板中央(栃木)のFW大塚尋斗(3年)。フットサルU-19日本代表に選ばれている逸材だが、本格的にフットサルを始めたのは高校2年の時だというのだ。

矢板中央は大塚が2年生だった17年度から、公式戦の出場機会に恵まれないBチームのために、部内にフットサル部門を発足させた。3年生が中心のチームと2年生以下のチームの計2チームが大会にエントリーしたが、参加初年度は栃木県内に競合がなく、その2チームでいきなり県大会決勝を戦った。ガチンコ勝負を制した2年生チームが優勝を勝ち取り、関東大会に駒を進めることに。そこに即戦力として呼ばれたのが、当時Aチームにいた大塚だった。

大塚の躍進もあって関東を制覇した矢板中央2年生チームは、そのまま全国優勝を遂げた。当然の流れでフットサル業界の注目も集まり、大塚は育成年代の代表合宿に呼ばれるようになった。中学時代もフットサルをしていたという大塚だが、1年強のブランクを挟み、本格始動してからわずか1年足らずで代表にまで上り詰めたというから驚きだ。

選手権直前の12月上旬には、氷点下25度のモンゴルで開催された、AFC U-20フットサル選手権2019予選に出場した。マカオとの初戦では出場わずか2分でハットトリックを達成、香港との第2戦でも弾丸シュートを決めるなど活躍し、満を持して選手権に臨んでいた。

「フットサルはコートが小さく、すぐに自分のところにボールが来る。取られたら守備に行かないと、ゴールが近くシュートを打たれる。矢板中央は守備から入るチームでもあり、守備をしっかりしないとダメだと、フットサルから学んでいます」

本人も口にする“フットサル効果”で選手権での爆発を期待していたが、途中出場が続き1点も奪えず。チームは準々決勝で青森山田に敗れて姿を消した。

フットサルで代表に呼ばれるのは名誉なことだが、かといって一本に絞るつもりはないという。進学予定の法政大ではサッカー部に入り、あくまで“サッカー”を続ける予定だ。「フットサルは6月にまた本大会があって、そこで呼ばれたらそのままやろうと思っていて。けど、4年間はしっかりサッカーでやろうと思っています」。好きなサッカーで同じ高みを目指す。

まだ18歳。進む道を決めるのは、もう少し先でも遅くない。「二兎(にと)を追う者は一兎をも得ず」とはよく言ったものだが、万人に当てはまる言葉ではないはずだ。【杉山理紗】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

◆杉山理紗(すぎやま・りさ) 1993年(平5)10月4日、岐阜県生まれ。16年に入社し、芸能記者を経て18年12月からサッカー担当。小学生時代はアイドルに夢中な友人を横目に、自室にジダンのポスターを貼っていたサッカーファン。