最短で行くのか、遠回りして行くのか。29年目を迎えたJリーグ開幕節に、大阪の名門私立・興国高出身の2選手のドラマがあった。

1人は横浜の新人で先発したMF樺山(かばやま)諒乃介(18)。同クラブの高卒新人が開幕戦で先発するのは、高体連(部活)出身ではDF松田直樹以来26年ぶりの快挙。特異なドリブルなど高度な技術を披露した、典型的なファンタジスタだ。

もう1人は樺山の8学年先輩、神戸のFW古橋亨梧(26)。Jリーグ月間ベストゴールになりそうな、芸術的ループシュートで優勝候補G大阪を下した。試合後は感極まって泣いたピュアな選手だ。

2人を指導した興国・内野智章監督(41)は、樺山の先発にはさすがに驚いたという。当日の部活を早々と切り上げ、部員は試合中継にくぎ付けに。その翌日に古橋のゴールを見ることになった。

06年に就任した内野監督は「プロになるなら興国へ」のキャッチコピーで、結果ではなく内容重視の指導に特化してきた。ドリブル専門コーチを招き、スペインで研修も実施。その環境で計23人のJリーガーが誕生し、樺山と古橋の目標は同じ欧州移籍だ。

樺山は横浜をリスペクトしつつ、実績を残せば、久保建英のように10代のうちに他国経由であってもプレミア行きを狙う。実際に1年前、フランス2部トゥールーズから獲得の打診を受け、より興味が湧いた。

中大と当時J2の岐阜経由で神戸入りした古橋は、樺山に比べると5年半も遠回りしてJ1にたどり着いた。イニエスタの相棒として名を売り始め、19年日本代表入り。バルセロナ移籍を目標に掲げるが、青田買いが主流の世界で26歳は年齢のハードルが高い。

「高校時代の古橋は、とにかくシュートが入らなかった。それが今では精度が上がり、スーパーな選手になった。本人の夢がかなえられれば」と恩師は言う。樺山にも「語学を身につけ、早く海外へ」と夢の後押しをする。

大阪市天王寺区にある校舎から巣立った2人が初めて直接対戦するのは、早ければ5月9日の日産スタジアム。最短で行くのか、遠回りして行くのか。それぞれの人生が凝縮される、今季のJリーグもおもしろい。【横田和幸】(ニッカンスポーツ・コム/サッカーコラム「サッカー現場発」)

2021年2月27日 神戸対G大阪 後半、神戸MF古橋亨梧(右から2人目)はループシュートで先制ゴールを決める
2021年2月27日 神戸対G大阪 後半、神戸MF古橋亨梧(右から2人目)はループシュートで先制ゴールを決める