大学サッカー部の広報活動が面白い。SNSや部員ブログ、試合速報など、幅広い広報活動がどのチームでもトレンドになっている。

営利目的の企業ではない大学サッカー部がなぜブランディングをするのか、彼らのモチベーションは何なのか。東京学芸大蹴球部・広報部代表の山口耕平さん(4年=東京・国分寺)、望月祐里さん(4年、マネジャー=山梨・甲府南)に話を聞いた。

タオルマフラーとポスターを持つ東京学芸大蹴球部・広報部の山口耕平さんと望月祐里さん(撮影・佐藤成)
タオルマフラーとポスターを持つ東京学芸大蹴球部・広報部の山口耕平さんと望月祐里さん(撮影・佐藤成)

■チーム強化から地域活性化まで

同広報部の目的は主に2つだという。山口さんは「1つは部としてのブランディングの向上。もう1つはピッチ内の活動を地域の人たちに知ってもらって、地域の人たちを盛り上げたい。元気を届けて、応援したくなるようなチームを目指しています」と説明した。

サッカーチームにおけるブランディング向上とは、チームの魅力をより多くの人に知ってもらい、ファンを増やすこと、そしてチーム自体の価値を高めること。価値を高めることによって有力な選手の加入を促し、強いチームになることが一義的な目的だろう。そしてそのブランドを武器に、地域活性化など副次的な活動にも目を向けることができるようになっていく。

広報活動で取り組んでいるのは、広報誌「Stones」の発行、SNSを活用した試合速報やリポート、公式サイトの更新、スポンサー獲得、部員ブログ更新、「Player!」というアプリの運用など多岐にわたるという。プレーヤーやマネジャーが協力し合いながら、コンテンツを展開している。

中でも力を入れているのは広報誌「Stones」の発行。フリーペーパーで、第6号まで続いている。リーグ戦の振り返りや、プロ内定者への特集など、部員が部員に取材し、ページのレイアウトまで全て自作だ。当初は試合会場にきたファンによりチームを知ってもらえるようなコンテンツとして生み出す予定だったが、コロナ禍で無観客となり、ウェブで受注し、発行する形に収まった。

積極的な広報活動が功を奏し、チームに還元される事例があった。山口さんは「(21年シーズン)後期からユニホームの胸にGPSの会社の『Fitogether』って付いているんです。選手がGPS(ウエアの電子パフォーマンス追跡システム)を取り入れたいっていっていたんですけど、結構高くて契約できなくて。でも(Fitogether Inc.社が)うちの広報活動に興味をもってくれて、『Stones』や胸ロゴで紹介してくれるなら無料で良いですよって提供してもらっているんです」。疲労度や走行距離などが数値化され、トレーニングにも生かせるようになった。私立よりも大学からの補助金の少ない東京学芸大にとっては、ありがたいサポートだという。

関東大学リーグに所属するチームでは、筑波大や明治大、流通経済大、早稲田大などユニホームにスポンサーを付けて活動するチームは多い。年間の部費、遠征費、ユニホーム代など学生の金銭的負担は少なくないが、アルバイトに多くの時間を割けない体育会学生にとって、スポンサーの支援による負担軽減は大きなメリットだ。

東京学芸大蹴球部・広報部が発行する広報誌「Stones」(撮影・佐藤成)
東京学芸大蹴球部・広報部が発行する広報誌「Stones」(撮影・佐藤成)

■理念に共感するスポンサー企業

東京学芸大の課外活動では、金銭の授受が認められておらず、スポンサー獲得はかなわなかった。そこで、大学内の「Explayground」というプロジェクトに目をつけた。企業や行政などさまざまな領域が連携して教育における新たなイノベーションを推進することを目的としたプロジェクトで、そこにサッカー部として加入した。金銭の授受も可能になり、審判、指導、広報活動といったピッチ外の活動の幅が広がったという。

「Stones」に設けた広告欄では、「地域を盛り上げたい」という理念に共感する近隣の自動車教習所2校と年間でスポンサー契約を結んでいる。また、負傷した部員が多く通う病院、大学付近の飲食店などもスポットで広告を出してくれたという。

チームの魅力を発信することは、精神的な部分で選手やチーム力の向上にもつながるという。

望月さんは「どれくらい結果につながったかは分からないけど」と断りつつ、「マネジャーも広報やりたくてやっているわけではないんですけど、広報で選手を支えていたなっていうのはあった。無観客ですごいプレッシャーとか不安もあった。広報を通して、選手と応援してくれる人がつながった部分はあると思うし、応援を肌で感じるのにつながったりもしたはずです。自分自身の自信や帰属意識もついてきたのではないかなと」。

Bチームでプレーしていた山口さんは「外に向けての発信だけど、組織として強くなる部分は絶対にある。見られているとか、誰かに支えられているという視点が生まれる。ピッチ内でも一体感うまれやすい」と選手目線でその効果を明かした。

積極的な発信がチームの価値を高め、スポンサー獲得やチームの結束につながった。広報活動に力を入れだしたのは直近2シーズン。望月さんは「他大学は広報にもっと時間かけているし、学芸はまだまだ。強いチームは何事も徹底している」と課題も認識している。実際に選手の金銭的負担減という観点では、ウエアの電子パフォーマンス追跡システムの導入がなされただけだ。

東京学芸大は3シーズン前に東京都リーグに降格し、チームは全ての活動を見直した。広報に力を入れだした20年シーズンで関東2部リーグへの昇格を決め、昨シーズンに1部リーグ昇格争いを繰り広げるなど、サッカーで結果を残した。広報活動の活性化は、自チーム成長における要素の1つといっても過言ではない。

【佐藤成】