2019年、鹿島アントラーズは大きな転換期に突入した。8月30日、クラブの母体である住友金属サッカー団の流れをくむ日本製鉄から、フリーマーケットアプリ大手のメルカリへと経営権が移行した。親会社が交代したこれからのアントラーズは、どうなっていくのか。何が変わり、また何が変わらないのか。どんなビジョンを描いているのか。メルカリからアントラーズに新しい風を送り込む、小泉文明社長(39)に聞いた。

3つの理由

鹿島のユニホームを手に笑顔を見せる小泉文明社長(撮影・浅見桂子)
鹿島のユニホームを手に笑顔を見せる小泉文明社長(撮影・浅見桂子)

メルカリの経営権取得は、今年のアントラーズにとって間違いなく一番の出来事だろう。27年間J1で戦い続ける常勝軍団の決断は、サッカー界のみならずビジネス界でも大きな注目を集めた。

そもそもなぜ、アントラーズは経営権を移行させる必要があったのか。

12年10月、アントラーズの母体である住友金属は、新日鐵と合併して「新日鉄住金」となった(現在は日本製鉄)。新日鐵が住友金属を吸収する形だったため、アントラーズを巡る事業の主導権は新日鐵側に移った。これにより、アントラーズと親会社との金銭面を含む関係性は、少しずつ変わっていった。

経営基盤の強化には、新たなパートナーが必要―。アントラーズと新日鉄住金の思惑は一致した。水面下で動きが始まったのは約4年前。複数の候補があった中で、父の実家がホームタウンにあり、幼少期からファンだったという小泉氏の〝アントラーズ愛〟が決め手となり、メルカリが親会社となることが内定した。

ではメルカリにとって、アントラーズの経営権を取得することによるメリットは何か。小泉氏は「3つの理由」を主張する。

水面下で4年前から…決めては“アントラーズ愛”

1つ目は「メルカリ利用者層とアントラーズファン層の相互乗り入れ」。20代や30代の女性人気が強いメルカリと、40代や50代の男性人気が強いアントラーズの持つ〝ギャップ〟に注目した形だ。弱みと強みを補完し合うことで、互いにターゲットを拡張することができる。

2つ目は「アントラーズのブランド力」だ。J開幕時から存在する〝オリジナル10〟の一員として27年間J1のトップを走り続ける、言わずと知れた名門。メルカリは小泉氏の言葉を借りると「ポッと出のベンチャー」であり、そのメルカリに足りない伝統と実績、それに基づく信頼感を、アントラーズは持っている。

3つ目は「テクノロジーとエンターテインメント、地域の相性」。20年からJリーグでもビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)が導入予定など、スポーツにテクノロジーの力が入り始めている。小泉氏はテクノロジーと融合させることで「エンタメとしてのサッカーをもっとリッチに見せて感動を与えられる」と言う。さらに鹿島は高齢化の進む地方都市。「テクノロジーに置いていかれないようにしないと、豊かさを享受できない。テクノロジーを使った地域の課題解決がビジネスになる」と考えている。この両方を一度にかなえられるのがアントラーズだった。

実際に経営権移行から3カ月が経った。親会社の立場から「あれをやりたい、これをやりたい」と夢を語るのは簡単だが、小泉氏いわく経営において重要なのは「いかに実行スピードを上げて、改善も含めて洗練させていくか」だという。

そのための第1歩としてアントラーズが取り組んでいるのが「業務スピードの効率化」だ。「スラック」というビジネスチャットツールを導入し、社内の連絡や書類のやりとりをこれに一本化している。紙で保管していた過去の資料も、すべてデータ化。大量の書類をシュレッダーにかける社員の姿も見られた。また役職を取締役、マネジャー、スタッフの3層に絞ることで、意思決定のスピードも改善している。話しやすい環境を作るべく、社長室も解体された。小泉氏は「今は土台づくりをしている状況。この後付加価値が高い部分をやっていこうと考えている」と話す。

それでも、チームの〝根っこ〟は変わらない。小泉氏は「アントラーズが大事にしてきたフィロソフィー、勝ちにこだわるフットボールチームとしての根幹の部分は、変えてはいけないと思っている。フットボール事業にプロではない僕らが口出しをするのは本筋ではない」と言う。自身が関与するのはあくまでビジネスの側面であり、ピッチ内のことにはタッチしない方針を示している。

一方で「『こういうところにデータを使いたい』と言うのであれば、アドバイスできることはあると思う」とも話す。ここで1つ、アントラーズとメルカリが手を取り合うことでのメリットが見えてくる。必要に応じてサッカーの側面にもテクノロジーを送り込むことが、アントラーズの強化につながる。

サポーターから見た変化は少ないかもしれないが、アントラーズ内部は確実に変化している。「だんだんとアントラーズがネット企業っぽくなっている。ダイナミズムが生まれて、チャレンジできる仕組みに変わってきている。変化するアントラーズにご期待いただきたい」(小泉氏)。まさに今、アントラーズは変革の最中にいる。