【ドーハ(カタール)=14日】日本サッカー協会(JFA)の失態で、日本代表GK川島永嗣(27=リールス)の出場停止処分が、決勝トーナメントに及ぶ可能性が出てきた。2-1で勝利を収めた13日の1次リーグのシリア戦で、川島は後半27分にゴール前で相手選手を倒して一発退場処分を受けた。JFAは相手選手がオフサイドの位置にいたため、「誤審」として処分取り消しを訴えたが、肝心の抗議文書をアジアサッカー連盟(AFC)が定める「試合終了後2時間以内」に提出しておらず、川島はAFCから17日の1次リーグ最終戦のサウジアラビア戦(FIFAランク78位)を含む、最低1試合の出場停止処分を受けた。

 シリア戦から一夜明けた午前10時からの練習前、原博実強化担当技術委員長は、報道陣から川島の退場処分に関する質問に、自信に満ちた口調で答えた。

 原委員長

 ビデオで何度も確認してもあれはオフサイド。これから退場処分の取り消しを求める抗議文を出します。オフサイドなら退場もないわけですし、次の出場停止もない。昨日の夜、英文で抗議文は制作しています。練習が終わったら、AFCに出します。

 ところが、これが認識不足だった。実はAFCのアジア杯規約55条抗議Cで、判定に対する抗議などは「試合終了2時間以内に文書としての提出」が義務づけられている。同委員長は「大会前に確認していますが、そんなことはない」と言い切ったが、1時間後、練習中に会場の外に出てきたときには、歯切れが悪く、トーンダウンしていた。

 原委員長

 抗議文は僕じゃなくて総務に任せています。試合終了後2時間以内の規約はFIFAにはないけど、AFCにはありますね。試合直後にAFCのソーセイ事務総長には「明日抗議文を出す」と口頭で伝えているので、それが受け入れられるかどうか。退場処分は取り消されることはないでしょうから、川島の出場停止が2試合、3試合じゃなく、1試合で済むように、やることをしっかりやるだけ。

 問題のシーンは1-0で迎えた後半27分に起きた。川島がゴール前でボールを受けたマルキを倒した。副審はオフサイドの旗を上げていたが、主審は認めず、レッドカードを出した。ボールがペナルティーエリア内に入ったのは、ハティブのパスではなく、DF今野のバックパスと判定された。今野は「僕はまったく触ってません」と断言。日本選手たちは「完全なオフサイド」と猛抗議したが、判定は覆らず、川島は退場処分を受け、PKで同点にされた。

 微妙な判定だったが、誤審と認められれば処分が撤回される可能性もあった。しかし、日本協会は肝心の抗議文書を規定時間内に提出していなかったため、その唯一の機会を逸した。日本の練習直後にAFCから「最低1試合の出場停止」の処分が発表された。今後は規律委員会で追加処分などを検討するため、最終的には2試合以上の出場停止になる可能性もあるという。その後、JFA側も抗議文書は提出したものの、AFC競技部の鈴木徳昭部長は「期限後に提出された文書も受け取るが、正式な抗議文ではなく参考資料のような取り扱いになる」と話した。

 川島はW杯南アフリカ大会で不動のGKとして日本の決勝トーナメント進出の原動力になった。その後、海外で経験を積んでさらに成長。中沢、闘莉王の両ベテランDFが負傷欠場している今大会は、精神的な支柱としても期待されていた。それだけに正GKの抜けた穴は大きい。この日の練習にフル参加した川島は「あの場面でみんな駆け寄って助けてくれたチームに感謝します。判定に納得できていないけど、結果的にチームに迷惑をかけた。申し訳ない」と潔く頭を下げた。今後は日本の1次リーグ突破と、出場停止が1試合にとどまることを祈るしかない。【盧載鎭】