【テヘラン(イラン)10日】日本代表のバヒド・ハリルホジッチ監督(63)が、チーム改革の一手として「もっと喜べ」「もっと笑え」と厳命した。9日にオマーンから移動し、テヘラン市内で13日の親善試合イラン戦に向けての練習を開始。冒頭で30分にわたって選手に語りかけ、8日のシリア戦の勝利をもっと喜ぶべき、そして普段から喜びを表現するべきだと説いた。選手たちもその後の練習でさっそく、指揮官の教え通りに感情を表現しだした。

 ミニゲーム、ラスト1分。ハリルホジッチ監督が「得点したチームが勝利」と告げた場面で、FW南野がゴールを決めた。両手を上げて、W杯本戦出場を決めたかのように喜ぶ。負けチームがノーゴールを主張したが、勝ったチームの盛り上がりがかき消した。勝ち組のDF丹羽は「喜んだもん勝ちだから」と笑った。

 ゲーム中から、FW宇佐美らがガッツポーズを繰り出し、喜びを表現した。霜田技術委員長は「もっと喜んでいいんだぞということを、監督は選手たちに言っています」と明かした。

 丹羽は「喜ぶことを文化として根付かせたいから、言ってくれているんだと思う」と受け止めた。従来の日本の文化を、指揮官は時間をかけて学んできた。初来日前から日本の歴史書を読み込んだ。最近は広島の原爆史跡、京都の寺院なども訪れた。ラグビーなど他競技の実情も調べた。

 そして何より、選手たちとの意思疎通に努めた。1つの結論が、日本人は感情表現が苦手ということだった。そしてシリア戦で確信した。難敵相手にアウェーで勝利。しかし選手たちは、前半の苦戦などに目を向け、喜ぼうとしなかった。

 喜び、笑い合えば、もっとチームは勢いづく。もっとまとまる。アルジェリア代表監督時代には、試合後のロッカールームでいつもの厳格さを崩し、選手の踊りの輪に加わったこともある。だから今回も、選手に求めた。「喜びなさい」。

 日本最大の学生スポーツである高校野球からして、派手な感情表現は高野連が戒める。慎み深く、結果よりも内容の至らぬ点を省みる。日本スポーツの発展を支える美点でもある一方で、世界へ向けた現状打破を妨げている側面もある。

 イラン戦では、8万人の敵地サポーターが、選手たちに重圧をかける。その中でも感情を解放し、自分の力を120%発揮できるか-。ハリルジャパンが、日本スポーツ界に新風を吹き込む実験的な戦いに臨む。