リオデジャネイロ五輪サッカー日本代表の手倉森誠監督(49)が、年の瀬に本大会を振り返ったインタビューの2回目。手倉森監督は1次リーグ敗退後に視察したブラジル対コロンビア戦で、日本サッカーに欠けている部分に気づいた。【取材=木下淳】

 --1次リーグで敗退した後、準々決勝(サンパウロ)を視察してから帰国した

 手倉森 我々のグループを突破したコロンビアが、準々決勝でブラジルと対戦したから。ブラジルとは大会5日前(7月30日)に最後の親善試合をやった。両国がどう戦うか見る必要があった。結論は、どちらも日本とやった時とは全く違う顔を見せていた。コロンビアはサッカーをしにいってなかった。ケンカしにいってた。何もない場所でもネイマールをつぶしまくってたし、選手が倒れて「ボールを外に出せ」って状況なのにコロンビアが外に出さなかった時なんて、ブラジルの選手が全員でボール1個に向かっていった。もし裏に蹴られてたら1点だったよ。ものすごかった。これが世界大会かと。南米同士の対決でプライドを見せつけられた時、このメンタリティーを「日本人にどう植えつければいいんだ」と、すぐ考えたよ。それで(12月20日の)S級リフレッシュ講習会で何度も訴えた言葉が「勝負本能」。これを日本人は養わないと。コロンビアは、日本戦であんなに戦ってこなかった。「日本なんかに負けるわけがない。ボール持たせてやらせとけ」って思ってたんだろうね。2-2で互角の試合をしたかもしれないけど、実は日本のレベルは低いと認識させられた。準々決勝を見て帰ってきて、本当に良かった。

 --もし準々決勝でブラジルと対戦していたら

 手倉森 短期間での回復力はイメージしていたし、その点では日本人に分があると思っていた。大会前に0-2で敗れていたから「日本はたいしたことない」と思っていただろうし、付け入るスキはあると思っていた。もし戦えたら(第2戦でオウンゴールし、1次リーグ第3戦では控えに回っていた)DF藤春を復帰させたり、(唯一1試合も出番がなかった)DF岩波を使おうとも思っていた。岩波は(11年の)U-17W杯で、主将としてブラジルに挑み、2-3で敗れた借りもあったから。

 --金メダル最有力の開催国相手でも、今まで通りターンオーバーするつもりだったのか

 手倉森 交代して力を発揮できるのが日本。(全6試合で最大10人を入れ替えて優勝した)アジア最終予選でも証明してみせた。クラブW杯でも鹿島がやっていた。大きな大会って、思い切って、割り切った交代ができる。「お前は休み、次はお前だ」って。これができると、チーム全員にエネルギーが伝わっていく。RマドリードとのクラブW杯決勝に進んだ鹿島も、トーナメントでそうなった。ベンチも含めて勝ちに行くと、真の一体感が出る。理解力が高まる。14年のW杯ブラジル大会の時も、ドイツが優勝したのは交代選手が試合を決めてきたから。あとは、ターンオーバーすれば、相手の分析が役に立たなくなる。もし勝ち上がれていたら、王国ブラジルを考えさせられれば、と思った。

 --20年の東京五輪に向けて

 手倉森 五輪も登録選手の上限は18人じゃなく23人にしてほしいね。でも、18人制の方が日本にとってはチャンスか。23人だと、他の国の方がいい選手が増えてしまいそう。重要なのはオーバーエージ(OA)だ。協力する選手が出て、国民が熱くなるのは大事だと思う。あとは世界大会を経験した選手を呼ばないといけない。1人いるだけで違う。今回、興梠、塩谷、藤春の3人が世界大会を経験していれば、準備は簡単にできたかもしれない。でも、俺は3人に世界の舞台を踏ませたかった。A代表に殴り込む態勢をつくってあげたかった。ただ、彼らの責任感の大きさに対して準備期間が短かった。

 --U-23(23歳以下)のリオ世代は、徐々にA代表に絡んできている

 手倉森 「A代表を担う選手になれ」という目標は言い続けてきたから。その覚悟があったからこそ、いまハリルホジッチ監督から声が掛かってるんだろうなと。植田、遠藤、大島、井手口、浅野、久保、その前に南野も。五輪で敗れはしたけど「Aを担う選手になれ」と言いながら、戦えたことはプラスだった。「何が何でもA代表になる」と思ってやってたか。これから答えが出る。その意味では、ロンドン世代が何でここまで世代交代が遅かったのか。ザックジャパンがメンバーを固めていた事情もあったけど、ロンドン組の姿勢が物足りなかったんじゃないか、とも思う。最近ようやく彼らが活躍できるようになってきた。(吉田)麻也と話したら「遅すぎます」と言ってたよ。

 --来年は5大会ぶりにU-20W杯に出場できる

 手倉森 やっぱり「U-20W杯→A代表」を目指さないと。五輪とW杯で成果を出すためには、U-20W杯で何か起こす気がないとダメ。なければ、五輪でもW杯でも何も起きない。五輪が終わってから勝負本能を養うんじゃなくて、20歳までに勝負本能を養っておかないといけない。生きる手段がサッカーという国がある中で、サッカーに懸ける気持ちが違うのは容易に分かるけど、豊かな日本で平和ボケしていてはいけない。その中でも、スポーツを通じて勝負本能を養わないと。ますます指導者が大事になる。ただ、テクニックを教えてればいいわけじゃない。

 --五輪が終わった後、A代表コーチとして日本協会に残る道を選んだ。そのような思いがあったからか

 手倉森 14年に(仙台監督から)U-21日本代表監督に就任して、数多く国際試合の経験を積ませてもらった。またJリーグの監督に戻って、日本サッカーのために何かやることもできるけど、協会にいた方が国際試合で貢献できる、協会に残ったからこそ、これまでの経験は伝えられる。そう思った。今までの協会と違う流れをつくって、東京五輪が成功するためにやっていきたい。ブツ切りじゃいけない。(U-19日本代表監督の)内山篤さんが5大会ぶりにU-19アジア選手権を突破できたのも、絶対に2大会連続でやってるから(敗退した前回大会はコーチ)。A代表も早川さん(コンディショニングコーチ)がずっといるから、W杯に出続けられているんだと思う。継続は大事。来年も、より継続性を持って必ずロシアへの切符をつかみたい。(おわり)