【アブダビ10日】日本がアジア杯UAE大会の初戦を迎え、トルクメニスタン相手に辛くも3-2で逆転勝ちした。森保監督の初公式大会は苦難の船出も、W杯ロシア大会で確立した、選手主体の修正力が際立つ結果に。担当記者が独自の視点で分析する「Nikkan eye」は、選手の証言から逆転劇の舞台裏を探る。

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後半開始直後、1トップ大迫が手を上げた。DF吉田がロングパスを上げ、競り合いからセカンドボールを狙う。両サイドバック(SB)の長友と酒井も敵陣へ駆けた。5-4-1陣形でゴール前に緑の壁をつくっていたトルクメニスタンが混乱し始める。前半とは明らかに戦法が変わった。

司令塔が明かす。「きれいに崩すより、多少アバウトなボールから2次攻撃した方がいいと話し合った」とMF柴崎。前半はSBが高い位置を取れなかったことも気になり「あとは幅。宏樹君と佑都さんに伝えた」。長友も「きれいな前半のサッカーをしていたら勝てなかった」と認める。前半は、ひどかった。それだけに効果は如実に表れた。

昨年9~11月の国内5試合は、中央にどんどん縦パスを入れてFW大迫が落とし、中島、南野、堂安の新2列目が躍動。5戦15得点は見ていて楽しかった。背景には、親善試合で相手が日本対策に本腰を入れてくることがなく、真っ向から打ち合えた状況がある。それが、どん引きのアジアでは再現できない。これまでの成功体験に頼って、攻撃の糸口をつかめなかった。

突破口を開いたのは、先発11人中7人を占めた「ロシア組」だった。昨夏も、W杯の事前合宿を終えてロシア入りした直後、選手だけでミーティングを実施。攻守に自分たちから仕掛けていく方針を長谷部主将が西野監督に申し入れ、承諾を得た。結果、16強入り。選手が主体性を持つ戦い方が確立された大会だった。

それが生きた。全3得点に絡んだ左MF原口も、サイド活用を提案した1人。「幅を取って仕掛けたら右ストッパーが食いついてきた」。前半、大迫は中央で常に2人のDFに挟まれていたが、後半、原口が左サイドライン際に張ったことで1対1になり始めた。そのタイミングを逃さなかったのが、後半11分。原口のパスから大迫が同点弾。かわす相手は1人で済んだ。4分後の勝ち越し弾も、原口が外、長友が空いた中を突く形でサイドを破り、フリーになった大迫に届いた。

今回の初戦前日も選手だけで集まり、全23人が1人ずつ大会に懸ける意気込みを語った。翌日のハーフタイムでは個別に意見を出し合って修正。森保監督も現場の意見を吸い上げ、尊重できる人。中央の攻めに固執した前半から一変した。

3-1で締められずミスで1点差に迫られた姿は、最多4度の優勝国らしくなかった。それでも光明は、ロシア組の経験が20歳コンビに伝わったこと。日本のアジア杯最年少ゴールを決めた堂安は、酒井から提案されたサイドチェンジで原口と長友を支援。最年少出場記録更新の冨安も戦術変更に食らいついた。薄氷を踏む思いの白星発進を教訓にしたはずだ。【木下淳】