日本代表として3大会連続でワールドカップ(W杯)に出場した本田圭佑(33=ボタフォゴ)は、強烈なリーダーシップを発揮しながら世界の頂点を目指してきました。時には言葉で仲間や、世論を動かしながら「W杯優勝」を公言。日刊スポーツでは密着取材を続けてきた元担当記者が「本田の名言 トップ10」を独断と偏見で選出。その発言の背景を振り返ります。第1回は10位から。

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「オレの守備のことばかり言うのが日本らしい。それより、オレがシュートを1本も打っていないことを指摘してほしい」

2009年9月6日、ドイツとの国境に近いオランダのエンスヘーデ。木漏れ日が降り注ぐグラウンドの横で、本田は何人かの記者に囲まれた。その前日の親善試合、日本は0-3でオランダに完敗。後半から途中出場した本田はFKの際、中村俊輔に「俺に蹴らせてください」と直訴した。

まだ代表入りしたばかり。連動性を重視する岡田ジャパンで、その強烈な個性は、まだ受け入れられていなかった。得点にこだわり、1人だけ前掛かりになることが多かった。周囲の選手から漏れ聞こえる守備の不安に対し、本田は「俺の守備のことばかり-」と、そう訴えかけたのだった。

それでも、代表に定着するために、自我を抑える姿も垣間見えた。3日後にオランダ・ユトレヒトであったガーナ戦(同年9月9日)。後半途中から入ると、不安の声を払拭(ふっしょく)しようと、必死に守備に戻った。その試合、日本は4-3で競り勝つ。それでも、歓喜に包まれたロッカー室から出てきた本田は、取材エリアで一切、笑顔はなかった。

「今日はオレの日じゃなかったです。物足りなかった。自分は何もしていない」

当時所属していたオランダのVVVフェンローで得点を重ね、自信をつけつつあった。代表でも結果を残し、不動の地位を奪い取ろうとする思惑があっただろう。だが、その欧州遠征で2戦無得点。不完全燃焼との思いが、そんな言葉につながった。

その後も信念はブレることはなかった。10年W杯南アフリカ大会を目前に控えた5月、成田空港で開かれた会見でこう言い放った。

「守備をするために試合に出ているわけではない。自分の特徴は攻撃。できれば守備はしたくない」

代表で定位置をつかむのは、この後になってからのこと。岡田ジャパンの下馬評も低かった。だが、本田の強気すぎる発言から、日本は世界16強入りを果たすことになる。

当時はまだ誰も、南アフリカでの日本の躍進を想像する人はいなかった。