頑固なこと、この上ない。ニコニコしているが、絶対に信念は曲げない。議論になっても、声を荒らげて主張することはなく、「そうですねえ…」と平然としている。だが、納得しなければ絶対にウンとは言わない。そのうちに反論していた側が、自然と考えを改めてしまう-。親族以外で最も親しい人をして「マヤの怒ったところは、見たことがない」と言うリーダー。それがサッカー日本代表のキャプテン、私が知る限りの吉田麻也という33歳のピッチ外での人物像だ。

張り詰めているからか、張り切りすぎたのか、耳を疑うような発言が報じられていた。ワールドカップ(W杯)に行けなければ、日本代表をすっぱりやめる-。敗れてW杯への道のりが、極めて厳しくなったサウジアラビアとの試合後に、責任論として、自らこう言い放ったという。豊富な海外での経験を持つ吉田は、ボロボロになるまで代表を続け、たとえ呼ばれなくても精神的主柱として代表に押し掛けるべきだと私は強く思っているほどだから、一切賛同できなかった。吉田の武器、芯の強さは鋼鉄のような「剛」ではなく、やわらかな物腰とクレバーな物言いに象徴される、しなやかさの中にある「柔」の強さだと思っている。「麻也」という名は、天然繊維で最も強いとされる「麻」から、そんな願いを込めて付けられた面もある。しなやかで、たくましい吉田の発言とは思えなかった。

れん絡をしてみた。3兄弟の三男として育った吉田には、サッカー界にも2人の「兄」がいる。背中を見て育ち、こうなりたいとあこがれ続けた偉大な2人はどう思っているのだろう、と-。頑固おやじのような「長男」は、代表引退発言に眉をひそめていた。「あんなことは言わなくていい」とやんわり制した。そして「外のことは気にせず、中をガッチリまとめておいたら、それでいい」。批判が渦巻く世間を「外」。代表チームの内部が「中」。自身の経験を踏まえこう助言した。

日々成長する「三男」を、温かく見つめる、おおらかな「次男」は「大丈夫でしょ」と笑っていた。「オリンピックでも(メダルという)結果が出ず、責任を感じていた。自分がやらなきゃ、となっている面はあると思う。前は長谷部さんもいたけど、今はもういないから、自分がやらなきゃ、となっているんだと思います。いいことですよ」。成長を喜んでいた。

本田圭佑はもういない。岡崎慎司も、ザ・キャプテンの長谷部誠もいない。日本代表は代替わりした。長く代表チームでも弟分だった吉田は主将になった。いま、経験したことのない苦境で若手と、もしかしたら信頼する森保一監督の“風よけ”になろうと、リーダーとして肩に力が入り過ぎているのかもしれない。ただ、今回、吉田の言動が気になり取材してみたこちらも、何の力もないのに過敏になっているのかもしれないと、気付かされた。前出の「兄」2人に極めて近い、「親戚のお兄ちゃん」のようなやんちゃな人物にこう言われた。「新聞記者が、そんなに重く受け止めてたらダメでしょ(笑い)。マヤはちょっといじってやるくらいで、ちょうどいい。それくらいが、あいつは力を発揮するんですよ。いつも、おちゃらけた記事書いてるのに、急に真剣な記事書いたら、マヤも調子狂うでしょ」。その通りかもしれない。普段通りで-。とにかく、信じてオーストラリア戦を見守りたい。

【八反誠】

 

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