森保ジャパンが崖っぷちで踏みとどまった。日本(FIFAランク26位)はB組首位のオーストラリア(同32位)に2-1で競り勝った。

前半8分、先発に抜てきされたMF田中碧(23)が先制。同点に追いつかれたが、後半41分にMF浅野拓磨(26)が相手のオウンゴールを呼び込み、勝ち越した。引き分け以下なら進退が問われた一戦で、森保一監督(53)は陣形を4-2-3-1から4-3-3に変更。積極的な采配が功を奏した。勝ち点を6に伸ばし、自動的に出場権を得られる2位以内へ望みをつなげた。

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指揮官の目が2度、赤くなった。試合開始前、スタジアムに君が代が流れると、目に涙を浮かべた。スタンドに揺れる日の丸がかすむ。「たくさんの応援を受けていると感じ、目頭が熱くなった」。肩を組んで歌い終え、腹をくくったように表情を戻した。

大胆起用や奇策を控える「動かない男」が動いた。4-2-3-1から4-3-3に変更。7日のサウジアラビア戦で失点につながるパスミスを犯した柴崎らを外す。本人は心境の変化は認めないが、引き分け以下なら解任もあった状況。いつも以上に期するものがあったことは間違いない。指揮官の執念が乗り移ったように、先発に抜てきした田中がいきなり結果を出す。前半8分、MF南野の左クロスを冷静に合わせ、代表初ゴールとなる先制弾を決めた。

優勢に進めていたが、後半25分には、守田が与えたFKから追いつかれた。立ち尽くす指揮官の目は、血走ったように赤くなった。まさに徳俵に足がかかった状態だったが、勝つための采配を貫く。同33分、FW浅野を送り込んだ。同41分、ロングパスを受けた浅野が一気にドリブルで攻め込み左足シュート。GKがはじいてポストに当たったボールを相手DFがクリアできず、オウンゴールになった。広島時代の教え子がチームを救った。ネットが揺れた瞬間、指揮官はコーチに飛びつかれて少し照れくさそうに抱擁したが、すぐさまピッチの田中に次の指示を送った。

7日のサウジアラビア戦に敗れ、4戦目にして崖っぷちに追い込まれた。「負けて気づかされることはたくさんある。いかに前向きに変換して次に臨めるか。道が続く限り、その考えは変わらない」。引き分け以下なら、解任の可能性もあった。後任候補にJ1東京の長谷川健太監督の名前も挙がった。「毎試合、監督としての道が続くのか、その岐路に立っていると思っている。この試合だからという思いはなかった」。必死で平常心を保ち、采配を的中させ、危機を脱した。

試合を終えて選手が引き揚げた後、1人でピッチを1周。ゴール裏では胸を手でたたきながら異例のあいさつ。各方面のスタンド前で立ち止まり、かれかけた声を張り上げて応援への感謝を伝えた。「これから6試合、W杯をつかみとるための試合が続く。覚悟して、次につなげたい」。11月にはアウェー2連戦と厳しい戦いは続くが、森保ジャパンが確かに息を吹き返した。【岡崎悠利】

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