【マナマ(バーレーン)21日=由本裕貴】アウェー決戦を前に、関塚ジャパンに強烈な追い風が吹いた。U-22(22歳以下)日本代表は今日22日、敵地でロンドン五輪アジア最終予選バーレーン戦に臨む。前日21日に監督の公式会見が行われた。バーレーン協会関係者によると、3月の政治対立による「バーレーン騒乱」以降、国外追放や他国へ移籍する選手が続出、戦力が大幅に弱体化し、現メンバーの大部分がアマチュアクラブ所属だという。5大会連続の五輪出場を目指す関塚ジャパンにとっては願ってもないチャンスだ。

 マナマ市内で行われた監督会見で、バーレーンのサルマン・シャリーダ監督は、時折笑顔を交えて抱負を語った。A代表経験者8人がメンバー入りしていることを明かし、「我々は準備ができている。選手を信頼している。日本は強いが、勝ちを狙う」と自信のコメントを並べた。

 しかし、その言葉とは裏腹に、戦力はこの数カ月で大幅に弱体化していた。今年2月にマナマで日本と親善試合を行い0-2で敗れた。そのチームから主力を含む複数の選手が入れ替わったという。同国協会関係者が明かす。「試合前なので詳細は明かせませんが、2月とはメンバーが変わっています。ローカルチームになっています」。現チームはアマチュアクラブ所属選手が大部分を占めているという。

 昨年末から中東諸国で「アラブの春」と呼ばれる反政府デモが頻発。バーレーンでも今年3月に「バーレーン騒乱」と呼ばれる暴動が発生した。多数派のイスラム教シーア派の住民が、国を統治するスンニ派に抗議の暴動を起こした。その際、参加者にU-22代表の選手も複数おり、逮捕されて国外追放処分を受けたり、オマーンなど他国のプロリーグに移籍する選手が続出した。現在、U-22代表はスンニ派の選手だけで構成されている。複数の主力選手が宗教対立という国の事情で招集されていない。

 ペルシャ湾岸諸国で行われる8月のガルフ杯では全試合で失点を重ね、グループリーグ最下位で予選敗退。9月21日の五輪アジア予選シリア戦も1-3で惨敗した。08年のW杯南アフリカ大会アジア3次予選では、岡田ジャパンを破るなど力をつけてきていたバーレーンだが、ここに来て国内事情により戦力ダウンしている。

 もっとも日本の関塚隆監督(51)は気を緩めない。19日のミーティングではビデオで分析。「ボールを持ってからの速い攻めなど力のある強力なチームだと思う。一体感を持って明日の試合に臨みたい」と話した。灼熱(しゃくねつ)地獄で1-2で負けた6月のクウェート戦とは違い、穏やかな気候で試合を迎える。ロンドンへの道に追い風が吹くが、油断せず、全力で勝利をつかみ取る。

 ◆アラブの春

 昨年から今年にかけて中東・アラブ諸国において機運の高まりをみせている民主化運動。チュニジアで10年12月から翌11年1月に起きた「ジャスミン革命」に端を発する。同革命で、同国で23年あまり独裁政権を築いてきたベンアリ政権に終止符が打たれた。その後、エジプト、シリア、バーレーンなどの中東・アラブ諸国にも、政府への抗議運動が飛び火した。

 ◆スンニ派とシーア派

 イスラム教において、預言者ムハンマド(マホメット)の後継者は「合意のもとで選ばれるべき」とするのがスンニ派。「ムハンマドの末裔(まつえい)であるべき」とするのがシーア派。前者は選挙制で教主を選び、イスラム法を重視する。基本的に戒律を口伝で習得したものを正統な教主と認め合議によって後継者を決定する方針を打ち出す。後者は7世紀後半、選挙制に異論を唱え、後継者の世襲制を支持した。全イスラム教徒の約9割がスンニ派とされるが、バーレーンではイスラム教徒の約7割がシーア派。