ほろ苦さの残る初戦だった。J2から昇格し、J1初挑戦の松本は、アウェーで名古屋と引き分けた。約1万人のサポーターが駆けつける中、前半32分、得意のセットプレーから先制する、願ってもないスタート。しかし、先制点の1分後に追い付かれ、3-1とした直後の3分間で2失点した。勝ち点1を得た安堵(あんど)感より、雰囲気にのまれ、勝ち点3を逃した悔しさがまさった。

 緑に染まったゴール裏から、松本の応援が途切れることはなかった。前半32分、MF岩上祐三(25)の左CKのこぼれ球からFWオビナ(32)が頭で押し込んで先制した。歓喜の輪から抜け出したDF田中隼磨(32)が、両手のひらを下に向ける大きなジェスチャーで「落ち着け」と声を出して指示した。しかし、1分後に失点を許した。

 1-1の後半18分、再び岩上の右CKからこぼれ球をFW池元友樹(29)が押し込んで勝ち越した。同31分には、相手のミスからMF喜山康平(27)が決めてリードを2点に広げて初勝利をつかみかけた。しかし、その後、3分間に2失点。あっという間に追いつかれる試合展開に、今日8日に51歳の誕生日を迎える反町監督は「このまま行ったら、寿命が短くなってしまう」とぼやいた。

 これがJ1の壁なのか。先発の日本人10人のうち、5人がJ1初出場だった。入場者はホームの約3倍近い3万3558人。名古屋の選手がボールを持てば沸き立つ相手サポーターが作り出す雰囲気にのまれてしまった。13年まで在籍した古巣相手に逃げ切れなかった試合展開に、田中は「俺が落ち着けと言っても、伝わっていなかった。責任を感じる。手に勝ち点3があったのに、簡単に離してしまった」と反省した。

 長野県勢として初めて挑むJ1の舞台。ゴール裏には、11年に心筋梗塞で亡くなった元日本代表の故松田直樹さん(享年34)のフラッグも掲げられた。田中は「マツさんの夢が1つ、成し遂げられたことは報告したい。甘くないぞ、と絶対に言っていると思う」と思いをはせた。14日の次節はホーム開幕戦で広島を迎える。反町監督は「胸を張って、松本に帰りたい。次はホームで勝ち点3を目指して努力する」。松本の新たな章が幕を開ける。【保坂恭子】