横浜の元日本代表MF中村俊輔(37)が、愛娘に贈る劇的FK弾を決めた。約4分が過ぎた後半ロスタイム、1点を追う場面。中央付近22メートルで得たFKを、ゴール左上に押し込んだ。直接FKの通算得点数で、並んでいた親友遠藤を抜いて単独トップに躍り出る18点目。偶然にも、その遠藤がファビオを倒して得たFKを、壁に立った遠藤の頭上を越して決めた。ドラマのような同点FK弾だった。

 「(単独トップは)全然、気にしてないよ。2位は誰だっけ? ヤット(遠藤)でしょ? 俺、海外にいたから、仮にヤットに抜かれても言い訳できるもん」

 冗談でそう言ったが、特別な思いがあった。この日は4人きょうだいの末っ子で、11年に誕生した待望の長女の4歳の誕生日。はるばる大阪まで駆け付けた愛娘に「ゴールを決めるね」と約束した。開幕前に左足首を手術し、5月には右大腿(だいたい)二頭筋の肉離れで長期離脱。故障に泣きながらも今季初のフル出場を果たし、最後の最後に13年10月27日大分戦以来、2年ぶりのFK弾が生まれた。

 「昔(元日本代表監督の)ジーコから言われた。FKの時は(他の選手に)またがせたりするんじゃないって。世界のトップ選手は違うよね。アルディレスからも学んだから。でも自分も危機感はあるんだよ」

 6月に37歳になり、衰えとの闘いがある。今でも胸の奥にあるのは、代表で苦しんだ10年W杯の大会中にカズ(現横浜FC)から届いた1本のメールだ。

 「サッカーは1分でヒーローになれる」

 まさしくラスト1分で、37歳の中村がヒーローになった。【益子浩一】

 ◆中村の直接FKゴール 13年10月27日の大分戦以来、2シーズンぶり。13年はJ1で4点決めたが、昨年はプロ18年目で初めて直接FK弾はゼロ。97年のプロ入り以来、海外リーグを含めた所属クラブと日本代表いずれかの公式戦で毎年決めてきたが「17年連続」で途絶えていた。