大地震に襲われた熊本をホームにするJ2熊本が“活動再開”した。19日午後、元日本代表FW巻誠一郎(35)ら15選手が、熊本・益城町(ましきまち)の避難所を訪れ、約30人の子どもたちとサッカーをした。14日夜からの熊本地震で、練習場やスタジアムは被災者支援のために利用され、練習再開などの予定は立たない。選手たちも避難生活で精いっぱいの中、「サッカーの力」で地元を元気づけるべく、最初の1歩を踏み出した。

 晴天の益城町。地震後、県指定の避難所となっている阿蘇熊本空港ホテルエミナースの一角に、元気な笑い声が響いた。フットサルコートでボールを蹴っていたのは、避難していた小学生ら約30人とJ2熊本の選手15人。状況把握のために18日から現地入りしていた、Jリーグ原博実副チェアマンも加わった。

 久々のサッカー。しかもJリーガーが相手だ。子どもたちは心からの笑顔をはじけさせた。巻は「でも、元気をもらったのは、むしろ僕らかも」と言った。

 巻 地震が起きてから「今はサッカーなんかやっちゃダメだ」みたいな気持ちがあった。でも、僕らが地元のためにできるのは、やっぱりサッカーを通した取り組み。今日はそれが再確認できました。

 選手たちはLINEで、支援物資についてなどの情報交換を精力的に行ってきたが、サッカーについて書く者は誰もいなかった。

 しかしこの日の午前11時、この宿泊施設に避難しているGK畑が「子どもたちとサッカーしませんか」と切り出した。すぐに盛り上がり、4時間後の午後3時決行となった。出先だった巻などは、練習着に着替える間もなかったが、構わず私服で現地に急行した。

 巻は16日の本震発生時、宇城市の実家にいた。津波注意報を受けて高台に避難する乗用車の渋滞を、夜道に立っての交通整理で解消した。翌日からは福岡県内に物資の中継地点を設け、全国のファンからの支援物資を被災地に届ける「ホットライン」構築に動いた。

 元日本代表ならではの人脈と発信力、地元出身ならではの土地勘を駆使し、一選手の枠をこえて被災者支援に走った。やまぬ余震、鳴り続く緊急地震速報に「今はサッカーどころではない」ともこぼしていた。

 しかし巻たちはこの日、サッカーで子どもたちを笑顔にした。子どもが笑えば、親も笑う。コートの横では、バレーボール大会も始まり、避難所は一気に活気づいた。サッカーには力がある。そう確信できた。

 今後はSNSで各避難所と連絡を取り、希望があれば他の選手たちとともに、支援物資とボールを持って訪れる。リーグ戦はおろか、練習再開のメドも立たない。それでも、やるべきことはある。