浦和FW武藤雄樹(27)は試合後、よくスタンドに向かって手を振っている。これ自体は、他の選手もよくやっていること。試合会場に招いた家族や友人に、観戦してくれたことへの感謝を伝えている。しかし武藤の場合は、少し違う。

 チームがいつも全体練習を行う大原サッカー場では、訪れたファンとよくこんなやりとりをしている。「こないだ、埼スタで手を振ったのに、気づいてくれないんですもん」。これは、ファン側の言い分ではない。武藤がそう言うのだ。

 試合後、スタンドの各方向に一礼するため、選手たちは場内を1周する。その時、武藤は大原で見かけたファンを見つけると、自分の方から手を振る。

 たいていのファンは、自分に手を振ってくれているとは思わないから、つい「スルー」してしまう。そのため後日、大原で前段のようなやりとりが見られることになる。

 見たことがあるファンでなくても、手を振ってくれれば、可能な限り手を振って返す。武藤がそうするのには、理由がある。