フランス1部のモナコ-トゥールーズ戦が「熊本地震復興支援マッチ」と銘打って4月29日に開催された。前日のパートナー協定の調印式と当日には「くまモン」も駆けつけ、元気な熊本をアピールした。サッカーに多方面から切り込む企画「サッカー ザツガク」では、なぜ日本から遠く離れた異国で復興支援マッチが実現したのか、協定を結んだ両クラブは今後どうなるのか、深掘りした。

 熊本とモナコの間には、懸け橋になった人物がいた。J2ロアッソ熊本のユニホームスポンサーである日本トータルテレマーケティングで会長を務める森英樹氏(50)。12年に社長を退くと同時にモナコ公国に移住した。その数年前に旅行で訪れ、魅力を感じ「人生は1度しかありません」と移った。地元クラブのモナコの試合観戦によく出かけ、ある試合でモナコのバシリエフ副会長と知り合った。

 熊本は以前から下部組織の選手を定期的にスペインに派遣していた。「いつかモナコとも…」。同副会長と夢を語っていたさなかの16年4月、震災が起きた。森氏はさまざまな対応に追われながら「立ち上がるなら今」と動いた。モナコにとってチャリティーマッチの開催は初の試みだったが、バシリエフ副会長が「熊本を支援できることは素晴らしいこと」と実現に向けて協力的だった。

 日本文化が受け入れられているフランスでも、くまモンは人気がある。熊本の池谷社長が県に依頼し、参加にこぎつけた。現地では熊本地震の報道こそあったものの、多くは知られていなかったという。試合前には震災当時の映像なども流された。バシリエフ副会長は「少なくとも我々とモナコのサポーターは事実を知った。1年後、少しでも状況が良くなっていることを願う」と語った。

 池谷社長は「本当に大事なのはこれから」と語る。今後は年内に下部組織の選手交流を実現させることが目標で、将来的にはトップチームの選手同士が移籍する可能性もある。現在欧州チャンピオンズリーグで4強と躍進しているモナコとの協力関係は、一地方クラブの熊本には大きな武器になる。マチアス営業部長も「これをきっかけに熊本とよりよい関係を築けたら」と歓迎した。震災という大きな悲しみから、熊本が羽ばたくきっかけを得た。【岡崎悠利】