前橋育英(群馬)の2年生FW榎本樹が、千金弾で悲願の初優勝に貢献した。0-0で突入した後半ロスタイム2分、自身の右側にいたFW飯島陸(3年)のシュートが相手DF三本木達哉(3年)に防がれる。しかし、はね返りが目の前に転がってきた。迷いなくダイレクトで右足を合わせると「よく覚えていないんです」という無心の一撃が突き刺さる。チーム12本目のシュートがようやく結実すると、迷わず応援スタンドへ走った。「ずっと3年生に迷惑をかけてきたので…。喜びを分かち合いたかった。うれし泣きは人生で初めてです」と感謝した。

 「私生活ダメダメで」迷惑をかけてきた。昨夏の全国総体前に寝坊した。「朝7時半集合だったのに目覚めたら8時で…。大会前、メンバー入りギリギリで本当に大事な時に」。寮から練習場まで「普段は自転車で10分のところ、5分で着いた」というほど飛ばしたが、待っていたのは、あきれ顔の山田耕介監督(58)と3年生。「練習に参加させてもらえず、ずっと草むしりしてました」と振り返る。

 雑草を抜きながら自分と向き合った。「同じ時期、ほかにもやらかした生徒がいて」。一緒に、もうグラウンド周りの草がなくなるまで毎日2~3時間。トイレ掃除、部室掃除もした。1週間がたった時、山田監督から呼ばれて復帰を許され、総体メンバーにも滑り込んだ。しかし「外れた先輩からの『何でお前が』」という冷たい視線が突き刺さる。「結果を出して恩返しするしかない」。責任感を胸に迎えた総体で5ゴール。得点王に輝き、認めてもらった。

 元日本代表の山口素弘、松田直樹さん、細貝萌ら72人ものプロ選手を輩出した名門で「偉大な選手は松田さんみたいにメンタルが強いか、規則をしっかり守って生活している」と胸に刻んだ。私生活を見直し「その後は、やらかしてません」と今大会、2年生唯一の先発メンバーとなり、全5試合でスタメンに。準々決勝の米子北(鳥取)戦で1得点し、準決勝の上田西(長野)で3アシストした。

 この日もメンバー外の3年生から「決勝でも決めてこい」と送り出され、優勝弾で期待に応えた。過去4強4回、準優勝2回。昨年度は青森山田に0-5で大敗した。「勝負弱いと言われて見返したかったし、去年の決勝もスタンドから見ていて悔しかった。借りを返すために1年間やってきて、試合に出られなかった3年生と山田監督を日本一にすることができて本当にうれしい」。涙の恩返し弾で、群馬県勢としても初の頂点に導いた。【木下淳】

 ◆榎本樹(えのもと・いつき)2000年(平12)6月4日、埼玉県生まれ。東松山ペレーニアFCジュニアユース時代の同期に青森山田FWバスケス・バイロン(2年)。足元の技術を磨くため高校は静岡学園を志望したが、最終的に誘いが熱心だった前橋育英に進んだ。参考にする選手はバーディー(レスター)。186センチ、73キロ。家族は両親。利き足右。血液型A。