川崎フロンターレがPK戦の末に北海道コンサドーレ札幌を下し、5度目の同大会決勝にして初制覇を果たした。GK新井章太(30)が絶体絶命の場面で相手のPKをストップするなど殊勲の活躍で、MVPに輝いた。

「(PKに突入し)楽しみでしたよ。やってやろうと」。そう、30歳はすがすがしい表情で振り返った。10人で延長戦を乗り切り、迎えたPK。3人目で、DF車屋紳太郎が最初に失敗した。「大丈夫だ、止めるから」。うつむく車屋にそう声をかけ、決められれば敗戦が決まる相手の5人目を迎えた。

「(跳ぶ)方向は決めていない。足の向きとか、最後の一瞬で判断した」。

決して簡単ではない、右上への厳しいコース。体を目いっぱい投げ出し、ボールを右へはじき出した。

「ずるずるいくより決めないと、と」。

大歓声の中で、新井は最後まで冷静だった。続く6人目。やや右よりへのシュートをがっちりのキャッチした瞬間、心の中は一気に歓喜へと変わった。ボールを持ったままピッチを走り、中央付近へダイブ。喜びを爆発させた。

やっとのPKだった。2-1でリードしながら後半ラストプレーで追いつかれ、延長戦でDF谷口彰悟が退場。さらに逆転を許した。「あきらめたら、俺が出ている意味がないなと思って」。周囲に「気持ちを強く持て」と大声をかけつづけた。日頃から常にのどあめを携帯し、いつでもピッチ中に届く声を準備した。折れそうな仲間の心を救い、小林の同点弾を最後方から見届けた。「みんなが追いついてくれたので、仕事するしかないなと」。PKは、味方から託された最後の仕事だった。

川崎Fに入団して7年。「ずっとサブキーパーで出られない時期もあった」。決して腐らず、後輩の愚痴に耳を傾けて背中を押しながら、自らの出番を待った。かつてはFW大久保嘉人やFWレナトなど、多くの点取り屋たちのシュートを練習で受けてきた。「(小林)悠もそうだし、阿部(浩之)も。すばらしい人ばかりで、そういう人のもとでGKができている。学びになった」。受け続けたシュートの分だけ手にした自信は最後まで揺らがなかった。

苦節を乗り越えて、タイトルとMVPを手にした。「上にいくんだという強い気持ちを持っていれば、神様は見てくれているんだと思う」。PKを止めたウイニングボールを手に、30歳が笑った。