新型コロナウイルスの感染拡大でJリーグはもちろん、大学、高校などほぼすべての活動が現在は休止状態になった。来年以降にプロ入りを目指す選手や、プロのスカウト活動はどうなっていくのか。元川崎フロンターレ監督の堀井美晴氏(67)に、業界に及ぶ影響を聞いた。同氏はセレッソ大阪ではスカウト、高校や大学でも指導を経験。すべての立場を知り尽くした存在だ。【取材・構成=横田和幸編集委員】

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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、春からスポーツイベントは軒並み中止や延期に追い込まれた。夏の全国高校総合体育大会(インターハイ)も、史上初めて中止になる可能性さえ指摘されている。

どの競技も同じだが、選手がプロ側に見てもらうこと、プロ側が選手を見ることも事実上できない。活動再開のメドが立たない状況を、堀井氏は心配している。

「高校生、中でも17歳ぐらいは短い期間で伸びる世代。技量に加え、身体的な成長がついてくる時期。季節でいえば春から夏にフッと伸びる。強豪校の選手、例えば今冬に全国高校選手権に出た選手なら知られているし、誰が見てもいい選手はいい。だが、無名高校でいい人材がいても、隠れたまま終わる可能性があるかもしれない。練習や試合ができない以上、力を発揮しようがない」

静岡の名門・藤枝東高出身の堀井氏は、FWとしてヤンマー(現C大阪)時代に日本代表入り。引退後はヤンマーでスカウト兼務のコーチに就き、日本協会では世代別代表も指導した。後に日本代表になったMF森島寛晃を、東海大第一(現東海大静岡翔洋)高から一本釣り。同じくFW西沢明訓を清水東高から入団させた。業界内で有数の「見る」「見抜く」プロだ。

「スカウトをやっていく上で、まず1年の最初に日本代表レベルの練習、合宿や試合に行く。その選手たちが今後、他の選手と比べて『良しあし』の基準になる。先に弱いチームの選手を見たり、弱いチーム同士の試合を見れば、採用を見誤る可能性がある。自分の目を慣れさせた上で、埋もれた才能を探し出していく1年になる」

このレベルの基準が縦軸とすれば、横軸は選手個々の資質の判断になる。

「選手を練習から見るのが大事で、取り組む姿勢が分かってくる。そして所属先の監督と話す。他の先生とも話して選手の情報を取る。何度も現場に足を運ぶ。それが先方との信頼関係になり、競合の中から入団につながる場合がある」

例えば、C大阪所属で東京五輪代表候補になるDF瀬古歩夢(19)は、小学3年の2月、堀井氏がクラブチームで練習する姿を見てC大阪の下部組織にスカウトした。「うまいだけではなく、練習に取り組む姿勢から、さらに伸びるというワクワク感があった」という。

Jクラブでは先日、湘南ベルマーレが小学生にプレー動画を投稿してもらい、スカウト活動に生かすことが話題になった。練習や試合がなくても、スカウトが指導者らと接することも可能だ。各自が工夫をして現状打破を目指している。

「もしプロを目指す高校生がいて、試合機会が奪われていても、今は腐らずにやってほしい。あきらめずにサッカーをやっていれば、どこで目を留めてもらえるか分からない。逆に言えばスカウトの責任は重大。仮に秋口からの活動になった場合でも、どれだけ情報を集められるかの勝負になってくる。そこには人脈や関係者から情報をいかに入手できるか。若いスカウトは特に大変だと思うが、今の困難をぜひ乗り切ってほしい」

 

◆堀井美晴(ほりい・よしはる)1953年(昭28)3月16日、静岡・藤枝市生まれ。藤枝東高からヤンマー(現C大阪)入り。引退後はヤンマーのコーチ、C大阪スカウト、G大阪コーチなどに就任。01年に当時J2の川崎F監督就任、その後は滋賀・草津東高コーチ、神戸国際大監督、磐田ヘッドコーチ、川崎Fユース監督など歴任。現在は滋賀・長浜フットボール&アスレチッククラブのコーチ、関西大人間健康学部非常勤講師。