42歳の“0円Jリーガー”がコロナ禍の中で奮闘している。J3のYS横浜FW安彦考真。年俸はほぼゼロ。昨季契約し、月約20万円を受け取っていたスポーツベンチャー「アセンダーズ」との契約延長も2月に自ら断った。そんな矢先にコロナショックで3月以降の主な収入源とみていた講演会が全て中止に。窮地に追い込まれたが40歳でJリーガーとなった雑草魂で本業の傍ら、新ビジネス立ち上げにもまい進している。

現役ラストと公言するシーズンは波乱の船出となった。今季年俸は月10円の計120円で3年連続の“ほぼ0円”契約。そんな中で直撃したコロナショックだが「不安はないです。ギリギリで出てくるパワーがある」と力を込めた。18年3月に40歳でJ2水戸に加入した際も「この年で契約してもらう時に、クラブにとって何がネックか考えた」と月1円の10カ月契約を受け入れた。厳しい生活だったが、プロ入り支援で募ったクラウドファウンディングの余剰金約30万円を実務稼働費とするなどして乗り切った。

現在は実家に身を置き、3月からは本格的に安定収入ゼロに。それでも「月々で考えるからおかしくなる。半年後の9月に(20万円×6で)120万円生み出せればいい」とチーム練習に励みながら、引退後にも行う予定という新事業に着手。知人らと100年後の日本を考えるグループ「THINK 2121」を立ち上げ、日本におけるさまざまな分野での後継者不足や移民問題解消などを議論しながら事業化の機会を探っている。

「諦めているわけでも軽視しているわけでもない」と選手としても外出自粛期間を利用してカフェインレス生活などの食事改善に取り組んでいる。18年のプロ入り以来、まだ公式戦での得点はなし。リーグ戦の開催の見通しはまだ立っていないが「1点でも多く取りたい」とラストシーズンでの初得点にも気合をみなぎらせている。

子どもたちに夢を与えるJリーガーとしての正解は何か。高給取りで日本代表などでも活躍することについて、安彦は「それが真のプロフェッショナル。否定する気持ちはない。でも、それは一握りの人だけ」と口にする。

一方で社会と向き合い、チーム内で自身の経験を伝えることで存在意義を感じてきた自負もある。

「末端の人間が諦めたらだめ。僕たちなりの生き方を身につけないといけないし、そういう選手がいてもいいよねという考え方。それがJリーガーの価値を下げることにはならない」

Jリーグに現れた42歳のパイオニア、安彦は止まることなく進んでいく。【松尾幸之介】

◆安彦考真(あびこ・たかまさ)1978年(昭53)2月1日、神奈川県生まれ。高校3年時に単身ブラジルへ渡り、19歳でグレミオ・マリンガとプロ契約を結ぶも開幕直前のけがもあり、ピッチに立てず帰国。03年に一度引退してコーチ業などに就くが、17年夏に39歳でプロ入りを再び志す。18年3月に練習生を経てJ2水戸と40歳でプロ契約。出場機会を得られず19年に旧知のシュタルフ監督率いるYS横浜に移籍。開幕戦の鳥取戦で途中出場し、ジーコの持っていたJリーグ最年長初出場記録(40歳2カ月13日)を上回る41歳1カ月9日でデビュー。175センチ、74キロ。