Jリーグも今年で28年目。過去の歴史をさかのぼると、驚きの出来事がありました。偉業、世界的な記録、珍事…数ある中から、えりすぐりの“すべらない話”をご紹介します。

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Jリーグどころか世界的にも珍しい、GKの“単独オウンゴール”だった。04年5月22日、サンフレッチェ広島対柏レイソル。前半17分、柏GK南は、広島FW森崎浩の左クロスをキャッチした。ボールを持ったGKがすべきプレーはただひとつ、味方にボールを預けることだ。前線へ大きくパントキックするもよし、近くにいる味方に渡すもよし。

少し迷った様子の南は、DFの選手に右手でボールを投げようとした。その瞬間、DF陣より少し遠くにいた広島FW田中が、プレスをかける構えを見せた。一瞬躊躇(ちゅうちょ)した南は動きを止めようとしたが、勢いがつきすぎていた。そのまま体はゴール方向に回り、手から離れたボールはゴールへ…あっという間に吸い込まれていった。

当該シーンについて、当時の日刊スポーツにはこう書いてある。

「柏、広島の選手全員が一瞬何が起こったのか理解できなかった。会場全体も『もしかしてゴール?』とざわめいた。主審がゴールを告げると広島の選手は首をかしげながら、控えめに喜び合った。一方、柏はこれでペースが狂ったのか、後半にも2失点し、このまま0-3で敗れた」

選手らの試合後の話からも、当時の状況がみてとれる。くしくも(?)南への“アシスト”をした森崎浩は「クロスを上げて(GKにキャッチされたので)自分のポジションに戻ろうとしたら、ボールが入っていてびっくりした」。プレスをかけた田中はプロ初出場で初先発だったといい、「今までサッカーをしていて初めて見た」と話していた。南本人はショックが大きすぎたのか、「何もありません」と静かにバスに乗り込んだそうだ。

そんな南は40歳の現在も現役で活躍している。あのオウンゴールの後も地道に試合出場を重ね、リーグ戦通算出場数は600試合を超えた。昨季はリーグ戦33試合に出場し、横浜FCのJ1昇格に貢献。Jリーグ史に名を残す、偉大な選手となった。平穏な社会あってこそJリーグが開催され、珍事も起こる。事態が収束し、Jリーグが再開される日が待ち遠しい。(おわり)